トランプ氏の「大型減税」予算案で犠牲となるのは「米国債と労働者」か…MAGA支持者の不満が招く“反ユダヤ主義”の台頭に要注意

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白熱する貿易交渉の裏で米製造業の雇用は…

 トランプ米大統領の“関税を武器とする貿易交渉”から目が離せなくなっている。

 トランプ氏は5月25日のSNS投稿で、欧州連合(EU)からの輸入品に対する50%の関税措置の発動を、当初の6月1日から7月9日に延期することを明らかにした。欧州委員会のフォンデアライエン委員長が電話会談の際、関税措置に関する協議を速やかに始めると約束したことが延期の理由だと、トランプ氏は説明している。

 ベッセント米財務長官が23日に指摘したとおり、関税引き上げの警告がEU側に貿易交渉を急がす効果をもたらしたようだ。

 貿易交渉で主導権を握りつつある米国だが、製造業の雇用を取り戻すという本来の目的を達成できる見込みは立っていない。米商務省が主催するセレクトUSA投資サミットが11日、東部メリーランド州で開かれたが、会場は冷ややかな空気が支配的だった。深刻な人材不足が背景にある。

 米労働省によれば、国内の製造業では約50万件の求人が埋まっておらず、全米製造業協会が今年実施した調査でも、製造分野の企業の約半数が「人材の採用と定着が最大の課題だ」と回答している。

財政赤字への対応は関税よりも重要

 一方、金融市場は関税政策の不確実性に適応し始めている。

 EUの輸入品に50%の関税がかけられると報じられても、金融市場は冷静だった。4月9日の関税引き上げ発表直後の混乱ぶりとは対照的だ。

 市場では「トランプ氏による関税圧力は交渉の前段階になることが多く、一時的な脅しの面がある」との認識が広がっているからだ(5月24日付日本経済新聞)。トランプ氏は「オオカミ少年だ」とみなされ始めているというわけだ。

 トランプ関税の悪影響が収束しつつある金融市場に次の難題が浮上している。

 米投資ファンド「カーライル・グループ」の共同創業者であるルーベンスタイン氏は20日、拡大する米国の財政赤字への対応は関税よりも重要な課題だとの見方を示した。

 米格付け企業「ムーディーズ・レーティングス」が16日、財政赤字の拡大を理由に米国債の格下げを発表したが、その後も事態が悪化している。

「債券自警団」がトランプ氏に“お灸”?

 米連邦議会下院は22日、トランプ氏の大型減税を盛り込んだ歳出法案(予算案)を可決したが、これが成立すれば、今後10年間で連邦債務が3兆8000億ドル(約543兆円)増加する見込みだ(連邦予算局試算)。

 トランプ氏は「1つの大きく美しい法案」と自賛しているが、金融市場の受け止め方はまったく異なる。

 米ヘッジファンド大手「ブリッジウォーター・アソシエーツ」の創業者で著名投資家のダリオ氏は22日、連邦債務の拡大がコントロールできなくなるとして、米国債に投資することに警告を発した。

「悪い金利上昇」が起き始めており、市場関係者の間では「債券自警団がトランプ政権にお灸を据えるのではないか」との憶測が広がっている。「債券自警団」とは1980年代に生まれた造語で、財政が過度に拡張的だと判断すると、国債を売却して金利を上昇させて警告を発する投資家を意味する。

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