コンサートでは「骨折もトークのネタに(笑)」 デビューから56年「由紀さおり」が明かす「いかりや長介」さんから教わった“大切なこと”

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 昨年、デビュー55周年を迎えた歌手の由紀さおりさん。テレビ・ラジオのレギュラーに加え、コンサートやニューアルバムの発売など、56年目を迎えた今年も忙しい日々が続いている。童謡、歌謡曲、ジャズなど、“守備範囲”の広さで知られる由紀さんだが、歌手だけでなく俳優、そしてコメディエンヌとしても類まれな才能を見せてくれる。その活動の源にあるのは何なのか、お話を伺った。(全2回の第1回)

ピンチはチャンス

 昨年8月、金沢で2日間にわたって行われた由紀さんのコンサートでのこと。オーケストラと合唱団のメンバーをバックに1曲目を歌った後、由紀さんはこう切り出した。

「いつもと様子が違うと気づかれた方もおられるかもしれません。いつもマイクは右手に持つんですけど、今日は左手なんです。実はベッドから落ちて、鎖骨を折ってしまいまして……でも、ベッドの上でハァーッと声を出したら、何とか声が出そうなので……来ちゃいました」

 心配そうに見入っていた観客から、笑い声が起きた。そして2日目――同じように1曲目を歌ってから、今度はこう語った。

「今日のコンサートのために、本当に沢山の方にお骨折り頂いて、ようやくこの日が実現しました……そうしたら、私が骨折しました」

 ステージでは笑いに変えていたが、実際は大変だった。骨折した当日は、前乗りで金沢入り。2日間のコンサートの後、ドラマ収録が2日。計4日のスケジュールが埋まっていた。ベッドでしばし呆然としながら、それでも声は出た。鎖骨ではなく肋骨を折っていたら無理だっただろう。「ならば、明日は歌えるかも」――かかりつけ医に整形外科医を紹介してもらい、コルセットを装着してステージに立った。

「お客さんは入れ替わるけど、後ろにいるオーケストラと合唱団のメンバーは同じ方たちでしょう。だから前の日のオープニングトークの内容は知っている。同じ話をすると後ろのメンバーの皆さんは笑えないなと思って、トークのネタを変えたんです(笑)」

 由紀さん曰く「ピンチはチャンス」だという。骨折で、自分の気持ちが落ち込んでしまっては満足なステージにならない。せっかく足を運んでくれた観客に楽しんで、そして笑ってもらえることを考えないといけない――由紀さんの歌手としての矜持には頭が下がる。

「歌だけでなく、おしゃべりも楽しくしたいんです。どんなネタが出てくるか、私のコンサートはMC(曲間のトーク)も楽しいんですよ」

 歌だけでなく、笑いも大切にするステージ。その源流はどこにあるのだろうか。

いかりや長介の教え

 群馬県桐生市に生まれた由紀さんは、幼稚園へ上がる頃に横浜市へ転居した後、音楽家・皆川和子さんが創設した「ひばり児童合唱団」に姉の安田祥子さんと共に参加。童謡歌手として活動を始め、アニメの声優や300曲以上のCMソングを歌ってきた。1969年、由紀さおりとして「夜明けのスキャット」でデビュー。150万枚のミリオンセラーとなる。

 歌手としての素晴らしさは誰もが知るところだが、由紀さんといえば、「コメディエンヌ」としての才能も見逃せない。それは由紀さんのデビューした年に放送が始まった「8時だョ!全員集合」(TBS系)に出演したことがきっかけだった。

「いかりや(長介)さんに、コントの基本から教えて頂きましたけど、本当にお優しい方でした。ドリフのコントで、最後のオチでびしょ濡れになったり、粉まみれになったりするでしょう。最初は、私たちもやるのかな、と不安に思っていたんですが、仲本(工事)さんや加藤(茶)さんが引き受けてくださいました。私たちの本業(歌手)のイメージを崩さないように、いかりやさんが気を遣ってくださったんです。アイドルはじめ多くの歌手の方が出演して一緒にコントをしていますが、そうしたいかりやさんの心配りが分かっていたので、みんな喜んで出演したんです」

 由紀さんがいかりやさんに教わったことで、特に印象に残るのが「言葉の置き方」だという。

「例えば、“それ、違うよ!”と、“違うよ、それ!”だと、何が“違う”のか伝わり方が変わってくるんですね。言葉の強弱だけでなく、置き方にも気をつける。それが笑いに変わることを教えて頂きました。あと、リハーサルを何度もやっていますので、このあたりでお客さんが笑うだろうという予想はしているのですが、慣れていない私たちはお客さんがドッと笑っているのに、次のセリフを言ってしまう。そうすると、お客さんにはセリフが聞こえなくなってしまうんですね。コメディアンの方々は、お客さんの笑い声がある程度おさまるまで、次のセリフを待てるんです。何よりも大切なのは、間合い。ちゃんと間を取ることなんですけど、そうしたこともドリフターズさんとの共演で学ばせていただきました」

「全員集合!」は、客前での公開生放送だったが、ドリフといえばもう一つ、「ドリフ大爆笑」(フジテレビ系)も外せない。こちらは収録コントで、由紀さんはゲストとして最多の出演数を誇っている。いかりやさんとの夫婦コントで名作も多いのだが、何といっても忘れられないのが、志村けんさんの「バカ殿様」と繰り広げた、あのコントの出だしだろう。

「これ、その方。名をなんと申す」(志村)
「さおり、と申します」(由紀)
「歳はいくつじゃ」(志村)

 次の由紀さんのひと言の後、尺八の音とともに、刀を手にするバカ殿の顔が一変するのがたまらなかった。

「あれね~。はい、年齢詐称は得意でございますよ(笑)。あのやり取りでは、志村さんが『サバ読んでるんじゃねえぞ』と言った後に、アドリブのセリフを入れてくるの。それが毎回、可笑しくてね。次は何を言ってくるのか分からないから(笑)」

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