「人生に疲れたら畑においで」 元サッカー日本代表・石川直宏さんが農家になった理由
「フルーツみたいに甘くてうまくて」
石川さんが農場に来られるのは月2~3回、繁忙期で週1日ほど。それ以外は、飯綱町で地方創生などを手がける会社「みみずや」の若い社員が担う。こちらも全員農業は初心者だが、地元の生産者に教えてもらい、見よう見まねで始めた。
「最初は5アールで小さくスタートしたんですが、できたとうもろこしを生で食べると、フルーツみたいに甘くてうまくて。自分の名前からとって“なおもろこし”と名付けました」
主な販売ルートはECサイトだが、「サポーターに届けたい」という当初の思いをかなえるべく、FC東京のホーム・味の素スタジアムで昨年は2回販売した。
「採れたてを持っていくんですが、日の出前に収穫するのがポイントで、グッと冷える朝にとうもろこしはエネルギーや甘みをためるんです。日が昇ると光合成を始めてエネルギーを使うから甘みが薄くなる。その前に収穫するわけです」
500本採って品質をチェック。トラックで3時間半かけて都内に運ぶ。昨年は暑さで100本しか採れないこともあったが、販売すればいつも即完売。「ナオさんに会えてうれしい」と涙ぐむサポーターもいる。
飲食店にも販売し、東京・吉祥寺のラーメン店「麺屋武蔵 虎洞」では「なおもろこし冷やし麺」を夏限定で、石川さんの背番号にちなみ1日「18」食提供する。
今年は、とうもろこしのビールやおやきの製造にも挑戦するという。
農作業によるウエルネス
とうもろこし以外にも、テニスコート3面ほどの田んぼで米作りをするなど徐々に幅を広げるが、その一方で石川さんは今年、立教大学大学院に入学した。スポーツを介したウエルネスについて研究するのだ。ただしそこは農場長、農作業によるウエルネスも研究対象にしようと考えている。
「僕も関わっている、アスリート限定のビジネススクールのメンバーも合宿しに来てくれたんですが、田んぼや畑の作業を通じてそれぞれのいつもとは違う面を知る機会ができて、メンバーの雰囲気が良くなるんです。こうしたチームビルディングやマインドセットを、スポーツや企業にも応用できるかもしれない。アスリートやビジネスパーソンがメンタルが疲れたときに来てリフレッシュできるという作用も含めて、農業の新しい可能性を研究しようと考えています」
現役時代、敵陣を切り裂く“スピードスター”だった石川さんを、当時の岡田武史代表監督は「試合の流れを変えるときに使える」と評価した。希代の“ゲームチェンジャー”は、農業に新しい価値をもたらすかもしれない。
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