【前編】ピン子もえなりくんも不在だった「AI橋田壽賀子」脚本の「渡鬼」 辛口コラムニストの本音評価は?
わずか30分枠
林:ストーリーには筋立てという要素のほかに、構成(筋立てをどう伝えるか)とか設定(筋立ての前提づくり)という要素があって、この筋立て、構成、設定という3つの要素についてはいずれも、今回の「渡鬼 番外編」ではかなり事細かに人間の側が指示を出したんじゃないかなと思ってます。
アナ:逆に言うと、人間が細かく指示しないと今回のレベルの脚本はできないということですか。
林:そう。AIもレベルによってはストーリーの3要素の一部、あるいは全部まで自動で生成できるはずだけれど、そこまでのAIを作ったり使ったりするには技術も時間もカネもかかる。実際にドラマとして制作可能なホンができるまでには、藤岡琢也版と宇津井健版の岡倉大吉が2人そろって登場してきたり、「おかくら」が中華を出して「幸楽」が和食を出す店に業態変えしていたりなんていうボツ脚本が大量生産されてもちっともおかしくない。
アナ:AIの怖さがよくわかる話ではありますが……
林:だからメカ壽賀子は、少なくとも現時点では、ストーリーの3要素は制作スタッフの人間から指示を受けていると考えたほうが現実的だね。何より今回の番外編、何でもありで自由闊達に作れるような環境のなかで制作されたわけじゃなさそうだし。
アナ:確かに、オンエアは地上波のゴールデンタイムではなくBS-TBSで日曜午後6時半からでしたし、放送枠もわずか30分だけでした。
5姉妹の出ない「渡鬼」
林:つまりは低予算。「実は地上波で3時間スペシャル作れるだけのカネはあったんだけれど、ほとんどAIに注ぎ込んじゃいまして、テヘヘ……」って話なら面白いけど、これまた考えにくい。
アナ:具体的にはどのような指示が人間側から出されたと考えられますか。
林:時代、人物、場所の設定はまず間違いなく人間が決めてます。さもないと、2095年のネオトーキョーで岡倉家のメンバー全員がオーケストラを結成してジュラ紀にタイムスリップする……なんていう、予算面でもキャスティング面でも絶対に制作不可能な超大作が出来上がっちゃうので。
アナ:そこはすごくよくわかります。実際の番外編は今の東京が舞台で、主要な登場人物は3人だけでした。冒頭で秋葉原ロケをやっていたのは新しいなと感じましたが、後半は幸楽の上の階にある自宅での室内劇。
林:繰り返しになるけれど、つまりは低予算。幸楽も出てこなきゃ、おかくらも一切、写らなかった。キャストだって、長山藍子、泉ピン子、中田喜子、野村真美、藤田朋子の岡倉5姉妹は誰も姿を見せなかったし、その旦那たちもピン子の相手の角野が電話越しの声でチラと割り込んできただけ。もちろん、えなりの復活もなし。
アナ:レギュラー陣のうち番外編に登場したのは、泉さんの長女、かつ、えなりさんの姉で幸楽の女将になっている吉村涼さん、その夫で幸楽の3代目を継いだ村田雄浩さん、そしてふたりの娘の安藤美優さんだけでした。
林:意外に新しもの好きだった壽賀子にならって、たとえば米騒動に苦しむ幸楽に農水大臣が来店して「米は買ったことがない」と放言して大揉めとか、たとえばインバウンド客が増えたおかくらで「ガザのパレスチナの民を救え!」という貼り紙を出して大炎上とか、そういう令和の今っぽい番外編をデッチ上げてほしかったけれど、役者は増えるわ舞台は拡がるわで無理なのよ。
アナ:でしょうね。さて、ここまでが設定についてのお話で、このあたりは人間が指示してるだろうとのことでしたが、では、筋立てはどうでしょう?
【後編】ではいよいよ、AI壽賀子の“性能”に迫る。





