「それはいけない!」と勝新太郎を羽交い締め…まさに松の廊下「影武者」降板をめぐる“黒澤明監督との大喧嘩”一部始終

エンタメ

  • ブックマーク

勝新を羽交い締めにしてまさに松の廊下

 翌日、事件は起きた。

「勝が朝早くから来ているというのでメイク室に向かうと、山田かつら店の社長が『無理だ、ダメだ』と言っているのが聞こえる。勝は、自分の演技を確認したいからカメラを回すと言っていました。そして『俺は自分で言ってくる』と、監督がいるセットに向かったので、私は追いかけました。勝は椅子に座っている監督にしゃがみ込んで話していましたが、あとで黒澤さんに聞くと、しばらくして意図がわかって、勝を『余計なことをするんじゃない』と一喝したそうです。怒った勝は、立ち上がって出て行きました」

 黒澤監督から「ちょっと見に行ってよ」と言われた野上さんが後を追うと、

「雨の中、番傘をバサッと投げ捨て、衣裳部屋に向かって行きました。その後のことは根津甚八から聞きましたが、『勝が衣装を脱ぎ捨てたので、トイレにでも行くのかと思ったけど、カンカンに怒っていて、カツラまでむしり取ったので何かあったと思った』とのことでした。衣裳部屋を出た勝は乗ってきたワゴン車に乗り込み、しばらく動かなかった。

 田中友幸プロデューサーが宥(なだ)めていて、私がその様子を黒澤さんに報告したら、『もういい、俺が行くから』と。黒澤さんはワゴン車に乗り込むと、非常に冷静に『勝君がそうならやめてもらうしかない』と言いました。勝は立ち上がって黒澤さんに掴みかかろうとし、田中さんが『勝君、それはいけない!』と羽交い締めにして、まさに松の廊下でした」

なぜか上映会にやって来た勝新

 騒動はすぐにマスコミに伝わり、翌々日に記者会見が行われたが、

「その時、私は監督に呼ばれて、『仲代に空いてないか聞いてみて』と言われ、監督の会見中に、廊下を隔てた小部屋で仲代達矢さんに電話しました。結局、この騒動は、間違って勝を主役に選んだ黒澤さんがいけないんですよ」

 さて、その後である。

「勝新は『影武者』に未練があったようで、いろんな人に相談して復帰できないか画策し、監督に会えないかと手を尽くしていました。私のところにも何通も手紙が来ました。映画の完成後、1980年4月に有楽座(編集部注:1984年11月閉館)で上映会を行ったんですが、そこに誰が呼んだのか、勝新が来たんです。その一報を聞き、私は鉢合わせさせてはいけないと思い、適当な理由をつけて仲代さんを事務室に隠しました。黒澤さんはいつの間にか裏に逃げていました(笑)」

 勝は「俺がやっていたらもっと面白かった」と語ったそうだが、はたして“降板騒動”を超えるほど面白くなったものだろうか。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

  • ブックマーク

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。