「それはいけない!」と勝新太郎を羽交い締め…まさに松の廊下「影武者」降板をめぐる“黒澤明監督との大喧嘩”一部始終
そもそも性格的に無理があった
だが、もう少し遡って振り返ってもらう。
「黒澤監督は主人公とその替え玉がいる設定が面白いと思って、『影武者』の脚本を書いたんでしょう。主役の武田信玄とその影武者は、当初は若山富三郎と弟の勝で行こうとしていた。兄弟で似ていましたからね。しかし若山に『勝新と一緒ではできない』と断られ、勝が信玄と影武者の二役、信玄の弟の信廉(のぶかど)役に、勝に似ている山崎努さんが選ばれました。
監督は、勝の映画は見てなかったと思いますよ。ブラウン管の中で見つけたんでしょうけど、そもそも勝新と黒澤さんとでは、性格的に無理があったんです。黒澤さんは被写体を徹底して作り上げ、細部まで自分の意図した絵を求めますが、勝は自分で監督をやりたい人。自分をどう撮るか、いちいち口を出すようなところがありました」
勝新の馴染みの店でも不満爆発
実際、撮影が始まる前から予兆はあったという。
「信廉役の山崎努さんを勝に似せるため、勝に自分の写真を送ってもらいましたが、届いた写真のいくつかの裏面に『これを参考にしろ』という○印が。そういうことをするからこの人はいけないんだ、と思いました。
また、黒澤さんは衣装合わせやリハーサルに時間をかけるんですが、勝はそれに参加せず、我々が京都まで赴いて衣装合わせをした。そのとき勝が馴染みの店に連れて行ってくれたんですけど、途中から顔を真っ白に塗った芸子さんが来て、勝は楽しそうだけど、黒澤さんは『なんだ、あの気持ち悪いのは。首まで真っ白だったじゃないか』と言っていた。そんなところも2人は合いませんでした」
79年6月26日、いよいよ姫路城にてクランクインした。勝は遅れて、7月17日から参加したが、
「リハーサルで、勝は用意された台詞をわざとそのまま言わないんです。俺はこう言いたいんだという感じで、黒澤さんが何回注意しても直らなかった」
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