「君は業界から葬り去られても文句は言えない」 歌手生活60周年「加藤登紀子」を突き動かすシンガーソングライターとしての“覚悟”

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無理せず、自然体で

「音楽業界だけでなく、“あなたのおいしい所だけが欲しいです”というのは昔から変わらない仕組みです。欲しい所だけ持って行かれて、あとはそのまま。でも、そんな世の中でも、人は生き続けなければならない。私もそうでした。毎日、今日を生きるということを確かめるために、曲を作り歌ってきました。生き続けることが、私のテーマですからね」

「何歳まで」とか、「あと何年」と期限を決めるのではなく、生き続ける限り歌っていくというのが加藤さんのポリシーだ。対面して話を聞いていても、声の張りはよく、笑顔で元気にあふれている。しかし、長いコンサートツアーを続けるためには相当な体力が必要なはず。体調維持に心掛けていることはあるのだろうか。

「独立を決めた50歳の時に、私自身、相当な覚悟を決めたので、体調管理には気を遣っていますよ。今も週に1回は体操の先生に来てもらったり、お風呂上りに水シャワーを浴びたりとか、体にいいよと言われたことで、気になったことは取り入れるようにしています」

 食べ物では、味噌と醤油は娘さんたちの畑でとれた大豆で作ったものだ。大好きな野菜は無農薬を食べている。食べ物の好き嫌いは特にないそうだが、喉へのケアはどうだろうか?

「辛いものも、酸っぱいものも普通に食べますよ。発声というのは、喉じゃなくて“息”なんです。息の流れを意識して、身体全体で出すものだから。前に知り合いの米国人歌手の女性が『冷たい飲み物は絶対にダメよ』と言いながら、数分後には美味しそうに生ビール飲んでた(笑)。確かに、歌う前に冷たい飲み物はよくないけれど、普段は欲しいものを飲めばいいんじゃないかしら」

 そんな加藤さんだが、5年ほど前から膝に痛みを感じることが増えた。それまで、これも体調管理のためにトランポリンをしていたが、決まった時間だけ必ずこなすようにしていたら、かえって膝を痛めてしまったという。

「何でもそうですけど、体にいいからといっても激しくやってはダメですね(笑)。できる範囲で、それも楽しみながらやるのが一番。飲食も同じです」

お風呂で正座

 今、加藤さんがハマっている健康法がある。それは入浴の際、「湯船で正座をする」ことだという。

「普通に正座をするのはちょっとキツいなと思っても、湯船の中だとすっとできるでしょう。それと、湯船の中だと体が浮いて、すぐに左右に振れちゃう。ちゃんと正座したままでいるには、体幹がしっかりしていないといけないから、こちらも鍛えられる。静かに呼吸を整えながら正座していると、腰回りにもいいですよ」

 加藤さんは、「少しでも正座ができるようになれば」との思いで始めたが、同じ方法を試している人もいて、X(旧ツイッター)でも「すごくいい」と記されていたという。

 ニューアルバム「for peace」には、中森明菜がカバーした「難破船」や、1983年に加藤さんが故・高倉健と夫婦役で共演した映画「居酒屋兆治」で高倉が歌った「時代おくれの酒場」などの懐かしい曲から、おなじみの「百万本のバラ」も収録されており、60周年記念コンサートも続いている。

 今日という日を生き続けるため、加藤さんは今日も歌い続ける。

【第1回は「『生きるとは、限界を超えていくこと』 戦後80年に『加藤登紀子』が思い返す実母の言葉 同じ時期に日本へ引き揚げた“名優”との不思議な縁」名曲「知床旅情」を巡る意外なストーリー】

加藤登紀子
1943年、旧満州のハルビン生まれ。東京大学在学中の1965年、第2回日本アマチュアシャンソンコンクールに優勝、歌手デビューを果たす。66年「赤い風船」で日本レコード大賞新人賞、71年「知床旅情」で同歌唱賞受賞。今年は「加藤登紀子60周年記念コンサート2025  for peace 80億の祈り」で全国30か所をツアー中。

デイリー新潮編集部

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