妻に無精子症を隠していたら、ある日「あなたもパパよ」と告げられた 今も明かせずにいる夫のプライドと葛藤
【前後編の後編/前編を読む】「僕は道化みたいなもの」40歳の浮気サレ夫 恋愛観の原点は「男を食い尽くす女」との日々
三田幹一郎さん(40歳・仮名=以下同)は、大学時代、「男を食い尽くす女」と噂される年上の女性・涼子さんに惹かれ、翻弄されながら数年にわたり関係を続けた。社会人になり、一度は常識的な女性と交際するも「つまらなくなってしまった」。数年ぶりに再会した涼子さんとふたたび関係をもった幹一郎さんは、「あなたを忘れられない」と告げる。
***
【前編を読む】「僕は道化みたいなもの」40歳の浮気サレ夫 恋愛観の原点は「男を食い尽くす女」との日々
それなのに涼子さんはまたどこかへ行ってしまった。彼女のおにいさんには「悪かったね、ごめん」と言われたが、そういう女性だとわかっているから腹も立たなかった。
「彼女、何もしないように見えて、実は英語は堪能だしピアノもうまい。おにいさんは、『オレなんかよりずっと才能がある。だけどすぐ飽きちゃうみたいなんだよ』と苦笑していました。そういえば、あのふたりがどういう家庭でどういうふうに育ったのか、聞いたこともなかったけど、おにいさんも魅力的な人でしたね」
さすがに2度も逃げられると、やはり彼女を追い続けるのは無理なのかもしれないと思うようになった。周りはみんな結婚していく。サラリーマンとしてはそろそろ家庭をもって落ち着くのもいいかもしれない。幹一郎さんはそう考えた。どうがんばっても、彼女からは自分が思うような“見返り”はない。かつては「愛させてくれればいい」と思ったが、彼も現実を見るようになったのだろう。
「学生時代の親友の結婚式で知り合った静佳とつきあうようになりました。親友の新婦がいちばん仲よくしている女性だというから、安心感がありました。確かに非の打ち所のない女性だった。一緒にいて楽しかったし、彼女のポジティブな考え方も好きだった。つきあうようになって1年足らずで結婚しました」
「精子の動きを調べてみませんか」
ついに年貢の納めどきか、と彼は心の中でつぶやいたという。涼子さんのことはもちろん色濃く残っていたが、彼女とは「幸せ」というものがつかめるかどうか定かではない。
「結婚して少したったころ、排尿時に痛みがあって、変な病気だと嫌だなと思ってすぐに会社近くの病院に行ったんです。軽い膀胱炎ということでしたが、『結婚したばかりだから、心配しちゃいました』と笑っていたら、『新婚だったら、精子の動きを調べてみませんか』と言われて。子どものことはまだあまり考えていなかったけど、軽い気持ちで調べてみたんです。そうしたらなんと無精子症だった……」
その後、詳しい検査もしたが病名に変わりはなかった。それでも人工授精で子どもは授かれるかもしれないと医者には言われたが、そんな言葉は耳に入ってこなかったという。
「男として能なしだと言われたも同然。そう思い込みました。どんなクズ男よりクズじゃないか、オレは男じゃないとそのときは落ち込んでしまって……。妻に言わなければいけないと思ったけど、言い出せなかった」
[1/3ページ]