石破総理はなぜ「消費減税」に踏み切らなかったのか 参院選情勢分析で出た“意外すぎる結果”、若手時代に脳裏に刻んだ“原風景”とは

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野党も頭打ち

 いずれにせよ、今のところは「他党がやるから、うちもやる」という安直と批判されかねない姿勢とは一線を画すことにしたわけだ。もっとも、消費税減税見送りは、しばらく前に行った参院選の情勢分析で、与党による過半数維持を可能と見立てたとされることも通底しそうだ。内閣支持率は振るわないが、冷静に世論調査を見ると、立憲民主、日本維新の会など他野党の多くも政党支持率は頭打ちだ。若い世代への訴求力が強く、大幅な伸長が見込まれる国民民主は気を吐くが、そのあおりで議席が食われる危険性は、自公だけでなく、他党も同じである。

 とりわけ野党第一党の立憲民主が勢いを欠けば、参院選の趨勢を決するとされる1人区など選挙区の多くで、自公が競り勝つ目が出てくる。国民民主とれいわ新選組という中小勢力の一人勝ちにとどまれば、地殻変動を起こすまでに至るのはそう簡単ではない。

山中貞則の地盤

 自民の森山裕幹事長を筆頭に、政権幹部には消費税率引き下げへの拒否度は強い。このため減税断行は、党内に大きな摩擦を生む懸念があった。これらを経て、参院選の主要争点は自動的に「消費税減税賛成派VS反対派」という構図になる見通しとなった。世論調査では賛成派は7割程度に上るケースがある半面、反対派は2~3割。減税反対派の少なさは集票にとって一定の障壁となることは否めない。実際、自民が消費税減税をしないとの報道が出始めて以降、内閣支持率は微妙に下押してきた印象を受ける。

 消費税減税を強く否定してきた森山幹事長は5月17日、地元鹿児島県で行った講演で「この問題に政治生命を懸けて対応する」と喝破し、返す刀で消費税減税を掲げた立憲を「甘い」と批判した。自民党税調のドンとして君臨し、消費税導入を政治的遺産とした故山中貞則・元税調会長の選挙区地盤を引き継いだのが森山氏だった。政治生命を賭すという激情の背景の一つである。

神経戦

 一方で、参院選を戦うため、最大の懸案である物価高への分かりやすい対策を不可欠とする声は与党内に強い。実際、公明党の斉藤鉄夫代表は5月18日のテレビ番組で、食料品の消費税率を現行の8%から5%に恒久的に引き下げる案に言及した。自民内を含め、消費税減税に対する有権者の支持が見込めるとする期待は依然大きい。

 かと言って、自民が一変し、立憲民主など他党を上回る規模の消費税減税策を打ち出す「後出しじゃんけん」に転ずれば、今度は「ぶれた」という非難を浴びるのが定番だ。1998年の参院選で、当時の故橋本龍太郎首相による所得税減税を巡る発言が「ぶれた」と指摘され、自民は大きく議席を減らして橋本首相は退陣に至った。与党は今後、参院選公約のほかに経済対策をまとめ、秋の臨時国会で補正予算を成立させることを見込む。参院選を戦うどのような「武器」が盛り込まれるか。経済状況はもとより選挙情勢、世論を見ながら神経戦のような思案が続く。

 さて、今春以降に国政上の変数として撃ち込まれた大きな弾は、米国からのトランプ高関税要求である。大幅な関税率引き上げまでに90日の猶予が設けられ、赤沢亮正経済再生担当相が日本政府の主な対米交渉役となった。赤沢氏によるワシントンでの第1回交渉は、トランプ氏との記念写真やMAGAの帽子をかぶるパフォーマンスが、友好ムードの印象を与えた。

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