「うちの子は中学受験に向いていますか?」 親からの質問に“指導暦40年の塾教師”の意外すぎる返答…子供の中学受験を「過酷」にする親の特徴とは

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中学受験に向いているか?

 近年は、首都圏を中心に中学受験の裾野が広がっていることもあり、春先になると子供の受験を考えている多くの両親が安本氏の元を訪れ、決まって「うちの子は中学受験に向いていますか?」と質問を投げかけるという。

「お子さんとお会いしたことがないので、はっきりしたことは言えませんが、まず向いていないでしょう。もし、仮に勉強が大好きだったとしたら、お子さんは相当な変わり者です」

 そのように述べた安本氏は、続けてこう問いかけるそうだ。

「じゃあ、受験に向いていなかったら放っておくんですか?中学生になったら、放っておいてもやるんですか?もっと言うことを聞きませんよ。小学生のうちに勉強の習慣を身に付けておくことは必要なことだとは思いませんか?」

合格以上に大切なもの

 安本氏は、中学受験のことを「子供への最大のプレゼント」と表現する。それは志望校の合格を勝ち取ることももちろんながら、そこに至るまでのプロセスで身につけた習慣や、思うような結果が残せなかった経験も、子供たちがその後に歩む人生で大きく役立つという考えからだ。

 近年は中学受験を目指す子供も増えているが、高校受験との最大の違いは、試験に合格できないケースの多さだ。近年は午後の入試を取り入れる学校も増え、受験するチャンスは広がっているが、それでもほぼ全ての受験生に間口が開かれている高校受験と比べると、合格のハードルは高い。

「僕ら塾講師は合格に向けて指導しますが、“絶対に受かるだろう”と思って送り出した生徒の不合格を聞くと、僕らもその理不尽さに怒りと悲しみがこみあげて、精神的に堪えるんです。けれども、生徒たちの本気の努力が実る喜びや、それらが必ず報われるわけではない社会の理不尽さを12歳で味わう経験は、その後の人生で大いに活きてくると思っています」

中学受験が過酷と言われる理由

 だが、全校不合格のリスクがある中学受験は、今でも「過酷」と言われることが多い。
 大人が過度な期待を寄せたり、思い通りの結果が残せない子供を叱責してしまうこと。そして「合格を手にできなければ何もかもが終わり」という価値観を子供に植え付け、恐怖心で机に向かわせること。それらはやがて子供の深い心の傷になってしまうし、中学受験が過酷だと言われてしまう要因であるとも考える。

 安本氏は言う。

「中学受験は合格の喜びも、思うように結果がでない悔しさも知ることができる貴重な機会です。中学受験で涙を飲んだ子が、大学入試ではその悔しさをバネにして志望校に合格するなんていくらでもある。目標に取り組み、その結果をどう受け止めるかが、中学受験を『過酷』で終わらせるか、『有意義』に終わらせるかの分かれ目です」

 ゴールデンウイークを終えると、受験生たちは本番に向けた勉強や、志望校の選定などに追われることになるだろう。受験生を持つご両親には、年々厳しさを増す受験戦争においても、冷静な判断を期待したいところである。

 3本目【なぜ算数の得意な子どもは中学受験で有利なのか プロ講師がむしろ「国語」を重視する理由…「年々低下している子供たちの能力」とは】では、カリスマ国語講師の安本満氏が、長年の講師生活の経験から、近年の子供たちの学力の低下の傾向、そしてそれを補うために何が必要かについて語っている。

安本満(やすもとみつる)
最盛期の大手塾で14年半指導し、「カリスマ国語講師」として、生徒、保護者、同僚から圧倒的な支持を受ける。1999年に「塾とは先生のことである」とし、龍馬進学研究会を創立。2025年2月には、癌の治療のためにセミリタイアし、同塾の会長として余生を執筆に専念したいと熱望。5月8日にはアメーバブログで「中学受験最高の選択」を立ち上げ、話題を呼んでいる。

ライター・白鳥純一

デイリー新潮編集部

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