生涯2度目のダウンを喫した「井上尚弥」はどこまで勝ち続けられるのか…「負けられない戦い」が続く過酷すぎる“防衛ロード”見直しは
疲れている?
「危険でしたね。ものすごい心配しました」――大先輩の元世界チャンピオンが本気でそう漏らすほど、凄まじい試合だった。
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日本時間の5日(現地時間4日)に米・ラスベガスで行われた、世界4団体スーパーバンタム級タイトルマッチで、統一王者の井上尚弥(32)が挑戦者ラモン・カルデナス(29)を8ラウンド(R)45秒TKOで破り、プロデビューから30連勝で4団体王座4度目の防衛に成功した。
井上がベルトを保持する4団体とは、WBA(世界ボクシング協会)、WBC(世界ボクシング評議会)、IBF(国際ボクシング連盟)、WBO(世界ボクシング機構)。これまで4団体の統一戦は、ボクシング史上で14試合しか行われておらず、そのうち井上は22年12月のバンタム級(53.524キロ以下)と、23年12月のスーパーバンタム級の2階級で経験し、いずれも勝利。4団体の王者統一はアジア人としては初の偉業となった。また、世界戦通算23KO勝利は伝説のヘビー級王者ジョー・ルイスの記録を約77年ぶりに更新する歴代最多となり、男子史上、最多記録に並ぶ4度目の4団体王座同時防衛に成功した。
だが、この試合で観客をどよめかせたのは、2Rの終盤に井上がカウンターの左フックをもらい、昨年5月に東京ドームで行われた、カルデナスと同じメキシコ人のルイス・ネリ(30)戦以来、2度目のダウンを喫した場面だった。
「今年だけで4試合という、ハイペースで防衛戦が予定されている井上にとって、この試合は組む必要があるのかと言われていました。その理由は、カルデナスが世界戦初挑戦だったからです。ところが、負けても失うものがないカルデナスは自分が持つ能力以上の力を発揮し、井上にとって、生涯2度目となるダウンを奪いました。気になったのは、井上がネリ戦と同じように、自分のパンチの打ち終わりに左フックを被弾してダウンを奪われたという事実でした」(スポーツ紙記者)
その衝撃のダウン劇を振り返ってみると、まずは1R。井上はリズムを刻みながら強力な左ジャブで牽制。カルデナスはガードを固めながら様子をうかがいつつ、井上が手数で圧倒した。
続く2R。井上がギアを上げ、左ジャブに必殺の左ボディも織り交ぜ始めた。カルデナスもパンチを打ち分け始め徐々に打ち合いを展開。終盤、カルデナスの右ストレートに井上がぐらつき、その後、鼻血がしたたる。残り15秒を切り、井上がプレッシャーをかけコーナーに追い込み、前に出ながら強振の左フックを放つも、カルデナスがよけて空振り。すると、カルデナスが渾身の左フックで井上のアゴを打ち抜き、会場がどよめいたのだ。
井上はダウンするも、真後ろには倒れず、体を反転させ膝立ちになって両手を付き、その後、冷静に立ち上がったところでラウンドが終了した。ネリ戦ではダウンを喫した後、一気にギアを上げた井上だが、この試合は冷静。3R以降、井上はジャブを中心に様子をうかがい手数で圧倒。カルデナスはダウンを取った左フックを強振も空を切った。
元WBA世界ライトフライ級王者でタレント・YouTuberの渡嘉敷勝男氏(64)は、自身のYouTubeチャンネル「トカチャンネル」で、「危険でしたね。ものすごい心配しました」と率直な感想。
さらに「井上チャンピオンのなんか動きが鈍いなっていうのは感じたんですよね」と指摘し、「井上チャンピオンの場合は、3カ月に1回という過酷な防衛戦を積み重ねていますよね。いくら早く倒したといえども、それまでの練習がものすごい時間をかけてやってますから、肉体的には疲労してるんですね。そして井上チャンピオンはすぐ次の日から、軽い練習をやり出したりしています。あれはよくない」と疲労の蓄積を危惧し、こう推察した。
「井上チャンピオンの勘だったら、ネリのパンチも避けられたはず。なのに、もらってる。見えなくても避けるのが勘ですから。井上チャンピオンの場合、破格の勘を持ってます。それが薄れてきているというのは年齢ではなく、おそらく疲れです」
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