三権分立が完全に崩壊、韓国に民主政治が根付かないのはなぜか――鈴置高史氏に聞く

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犠牲を重ねて実現した民主主義

――韓国は犠牲を重ねてようやく民主化しました。

鈴置:私はその現場にいました。1987年のことです。年末の大統領選挙で政権側候補が当選する可能性の高い間接制ではなく、直接制を採用するよう野党や学生が求めたのに対し、政権側は厳しく弾圧し、2人の学生が警察に殺されました。

 それまでも1948年の建国以来、数百人の人々が民主主義を求めて殺されたのです。そうした犠牲を考えると、韓国の民主化の後退は民族的な大損害と思います。

――「もったいない」ですね。

鈴置:全くそう思います。ただ、それは「外から眺める者」の感想です。生きるか死ぬかの激しい国内対立に直面する政治勢力は「民主化の犠牲」に思いを馳せる余裕などないのでしょう。

 21世紀に入って民主化が後退する国が相次ぎます。それらの国でも国内対立が激しくなっています。韓国と同じ構造です。

――国内対立が激しくても三権分立を維持する国もあります。

鈴置:国民の法治意識が関係するのでしょう。韓国は民主化しましたが、国民に法治の重要性が理解されているとは言い難い。2020年、文在寅(ムン・ジェイン)政権は4カ月の間に法務部長官に対する指揮権を3回発動しましたが、さして問題化しませんでした。

 文在寅政権は2019年2月、保守政権が最高裁長官に任命した梁承泰(ヤン・スンテ)氏も逮捕・起訴しました。朴槿恵(パク・クネ)政権の意向を汲み「徴用工」裁判に介入して遅延させた、との「罪状」です。2024年1月には一審で無罪判決が出ましたが。

日本より「上」の韓国民主主義

――司法介入は文在寅政権から始まっていたのですね。

鈴置:その通りです。ただ、日本ではさほど話題にもならず「韓国は民主主義国」との認識が続いていたのです。

――なぜ、日本で話題にならなかったのでしょう。

鈴置:韓国メディアが大きく取り上げなかったから、日本の新聞も「民主主義の後退」をきちんと報じなかったのです。それもあって「韓国の民主主義の水準は日本を超えた」というプロパガンダを信じる日本人がけっこういたのです。

 しかし、西洋の冷静な韓国観察者の間では、指揮権発動あたりから「韓国民主主義の後退」が話題になっていました。欧州の研究者から「台湾の民主化は着実に進展しているのに、韓国では後退が始まった。なぜだと思うか」との質問が寄せられたりしたものです。

 私は儒教国家特有の法治意識の乏しさで説明しました。台湾人も中国文明を背景に生きていますが、初めて体験した国家は「日本」でした。李朝以来、連綿と続いた儒教国家の民とは異なるとの論理です。

 詳しくは『韓国消滅』第2章「形だけの民主主義を誇る」をご覧ください。最高裁長官だった梁承泰氏の逮捕・起訴に関しても第4章「日本との関係を悪化させたい」で詳述しています。

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