三権分立が完全に崩壊、韓国に民主政治が根付かないのはなぜか――鈴置高史氏に聞く

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国会が裁判官の判決を裁く

「共に民主党」の司法介入はさらに露骨になっています。ターゲットは曹喜大・最高裁長官で、差し戻し判決は政治への介入との理屈です。まず、国会の聴聞会に呼びつけましたが、拒否されました。

 すると、特別検察官設置法を発議して曹喜大長官の容疑固めに乗り出しました。公判が延期されても曹喜大長官への弾劾の旗は降ろしていません。2027年6月まで任期が保障された曹喜大長官を一刻も早く引きずり降ろしたいのです。

 さらに「共に民主党」の院内政策首席を務める議員は「誤った判決」を下した裁判官に対しては懲役10年を科せる法案も発議しました。

「法歪曲罪」を新設し、裁判官・検事・警察官らが当事者の一方を有利または不利にする目的で法を歪曲して適用した場合、10年以下の懲役と10年以下の資格停止に処することにしようというのです。

「誤った判決」かどうかを決めるのは国会ですから、司法は完全に立法の下請け機関になります。

 朝鮮日報は社説「最高裁長官を辞めさせようと弾劾・聴聞会から特別検察まで」(5月14日、韓国語版)で「立法権力に続き大統領権力まで手が届きそうになった政治勢力が司法までひれ伏させようとしている」と悲鳴をあげました。

 日本の隣には、奇妙な国が生まれかけているのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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