黙々と机に向かい誰とも話さずに1日が終わる? 知られざる「校閲者」の日常をご紹介「一日中しゃべり通しの書籍校閲もいますね」

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 こんにちは、新潮社校閲部の甲谷です。

 今回もクイズからいきますね。

 以下の4つの語の一般的な読みは、それぞれ何でしょうか? どれも「熟字訓」と呼ばれるものです。

 1.躊躇う 2.狼狽える 3.揶揄う 4.揺蕩う

校閲者の日常とは

 さて今回は、「書籍校閲」と「雑誌校閲」の違いについて取り上げつつ、校閲者がどんな日常を送っているか、ごく一部ですが、紹介します。

 校閲者と言うと、誰とも話さずに、一人で黙々と机に向かって文章を読んでいる、というイメージをお持ちの方も多いかと思いますが、果たして実際のところはどうなのでしょうか?

 先にお断りしておきますと、あくまで弊社校閲部の日常の一例であり、世の中の校閲者すべてに当てはまる話ではないことをご了承ください。また、「初校」「素読み」などの用語については過去回をご参照いただくか、その都度ネットで調べていただければ幸いです。

「書籍校閲」なのに一日中しゃべり通しの人も?

 まず書籍校閲。フロア内には数十人の部員がいるはずなのにいつも静まり返っており、キーボードを叩く音や、靴音が響き渡ります。

 仕事は独立性が高いため、多くの部員は、誰が何の仕事をしているのかを正直あまり把握していません。そういう意味では「職人の世界」と言えるかもしれません。また、書籍は仕事のスパンが雑誌よりも長く、たとえば学術書1冊の初校校閲に3週間かかる、ということもありますし、短いエッセイ本や新書だとしても最低1週間は確保したいところ。その間、基本的に1冊の本にじっくり没頭できるのは書籍校閲の良いところです。

 ただし、1冊の本が校了するまで他の本のことはやらなくていい、というわけではなく、複数の本を抱えながらの作業となります。たとえば、Aという本の初校が終わったら次にBの初校、そのあとはAの再校、Cの初校、Bの再校、Aの校了(念校)……といったように、Aという本が完成するまでに他の本の作業も進めていきます。カバー、表紙、帯、書評などの確認作業も随時行います。

 静かなフロアで午前中があっという間に終わり、ランチへ。このランチで同僚と話すときに初めて挨拶以外の言葉を口にするという日も多いです。一人でランチを食べる場合、本当に誰とも話さないまま一日が終わる、ということが書籍担当の場合は往々にしてあります(書籍担当だった頃の私のことです)。

 とはいえ書籍校閲者も、仕事上で人と話す機会は意外とあります。担当編集者とは密に連絡を取ったり打ち合わせをしたりしますし、それ以外の部署(装幀、営業など)とやり取りすることも。とりわけ、校閲部内で進行係(日程管理や渉外などの担当)という役割に就いた場合、社内のみならず印刷所や外部校正者(フリーランスや元社員の方)との打ち合わせ、メール等もかなり多く、一日中しゃべり通しです。

 私自身、「誰とも話さずに自分の仕事に没頭できる!」と思ってこの仕事を志したわけですが、進行係を雑誌・書籍で計8年半担当したことで、その期待はもろくも崩れ去りました。

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