コメ不足の深刻化で「おしん」の“大根めし”に脚光…いつまで経っても備蓄米が流通しない原因は「人事異動」や「トラック不足」なのか

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減少する実質賃金

 5キロあたり4233円で、前週と比較すると12円の値上がり。値上がりは実に17週連続という異常事態だ。

 昨年の12月は5キロ3500円台だった。これでも庶民にとっては高額だが、それから5カ月が経過すると、さらに700円も価格が上昇したことになる。

 一方、我々の実質所得は減少を続けている。厚生労働省は5月9日、「毎月勤労統計調査 令和7年3月分速報」を発表した。

 速報によると、名目賃金は30万8572円となり、39カ月連続のプラスだった。だが消費者物価指数が4・2%上昇したことが響き、実質賃金は前年同月比で2・1%のマイナス。しかも3カ月連続のマイナスとなった。

 たとえ賃金の額は増えても、物価の高騰には全く追いついていない。そして庶民を苦しめる物価高の象徴がコメということになる。

 あまりにコメが高すぎて買えない。そのためネット上では「コメのかさ増し」に関する情報交換が盛んだ。

「山梨県に本社を置く『はくばく』は、もち麦のシェアが8割に達しています。そして昨年8月にはコメ不足の影響で、もち麦の売上高が前年同月比で44%増と飛躍的な伸びを示しました。今年に入っても麦ご飯の関連商品は好調で、例えば押し麦も人気です。さらにSNSではコメの量を野菜で増やすテクニックを紹介する投稿が増えています。具体的にはトウモロコシ、ジャガイモ、大根といった野菜を入れて量を増やすのです」(同・記者)

明治に逆戻りした「大根めし」

 かさ増しのため、コメに大根を入れて炊く──50代以上なら、1983年4月からNHKで放送された連続テレビ小説「おしん」を思い出すのではないだろうか。

「ドラマの序盤は明治40年の山形県が舞台で、ヒロインのおしんは小作人の娘でした。家族は懸命にコメを作りますが、冷害などの影響で凶作に苦しみます。地主にコメを上納できず、今で言う借金が家計に重くのしかかっていました。コメを作っているのにコメを満足に食べられないのです。ドラマでは大根めしが頻繁に登場し、おしんの貧困を象徴していました。平均視聴率は52・6%(註:ビデオリサーチ調べ、関東地区)という驚異的な数字だったため、視聴者は山形県に殺到。現地では大根めしが観光名物になったのです」(同・記者)

 バブル景気は1986年から始まったという説がある。だとすると「おしん」の放映が始まった83年は、その前夜と形容することが可能だろう。

「経済が右肩上がりの上昇を続け、国民の生活が安定していた時代に、ある種のノスタルジックな想いから、あるいはヘルシーであるという理由から大根めしを食べるのは何の問題もありません。ところが今の私たちが大根めしを食べているのは、まさに生活苦が原因でしょう。重い税負担は『痛税』と表現され、社会保障費で給与の手取りは相当な額が減ってしまいます。日本人は明治に開国して以来、懸命に働いて国を豊かにしてきたはずです。ところが令和の時代に訪れたのは、おしんのように貧困に悩み、満足に白米も食べられない生活なのです。国民に窮乏を強いる政府、特に農水省の責任は極めて重いと言わざるを得ません」(同・記者)

 第2回【「ごはん1杯はコンビニのサンドウィッチより安い」と主張のJA組合長が炎上…「江藤農水相」は「コメの価格は市場が決めるべき」との態度を崩さず】では、長野県のJA組合長が「コメはコンビニのサンドウィッチより安い」と指摘して炎上したことや、江藤農水相が国民の困窮を無視し、「コメの価格は市場原理に委ねるべき」と強弁したことについてお伝えする──。

デイリー新潮編集部

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