「詐欺は破門」の伝統はどうなる「特殊詐欺」への関与も見て見ぬふり…ヤクザの掟にも影を落とす時代の変化
暴力団は暴利を貪る犯罪組織の代表格と言われて久しい。そんな暴力団であっても、ヤクザ渡世に起源を持つことから、組には一定の規律や綱領のようなものがある。それに反した者は重ければ絶縁、一般的には破門といった追放処分が科されることが習わしとなっている。【藤原良/作家・ノンフィクションライター】
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それらしく言えば「掟に背く者は追放されるのがしきたり」なのだ。
処分される者に立場は関係なく、直系組長や幹部、ベテランであっても掟に背けば例外なく処分される。だが実のところ、処分を決定する掟、つまり“判断基準”は曖昧だ。
法律や判例に基づいて判決を下す裁判とは異なり、暴力団は問題視された事案に関する事情や原因などを「組長個人の裁量」で勘案して処分を決定するからだ。(一部の役職者は執行部会で処分を決定する)。そのため同じ事案であっても同じ処分となるわけではない。
規約や破門の条項を会則のような形で紙に明記し、あらかじめ組員に周知する組もないではない。だが、ほとんどの組では口頭で何となく言い伝えているというケースが一般的だろう。
要するに「その時々の組長の判断によって、あちらの組では破門にされても、こちらの組では許される」という感じだ。これで組員が組を移籍する原因につながることも珍しくない。
例えば、ある組では組員が覚醒剤を扱えば破門と定めている。だが別の組では覚醒剤はお咎めナシだったりもする。どの暴力団にも共通する“ヤクザの掟”は存在しないと言ってもいい。
とはいえ、どんな業界にも「業界の常識」、「業界のイロハ」、「業界共通の筋道」といった慣例や習慣があるものだ。それと同様、“暴力団業界”にもヤクザ渡世に端を発する古いルールのようなものが存在する。
「詐欺は破門」の伝統
有名なものに「ヤクザは盗人の上で、乞食の下」がある。ヤクザは乞食より格下だが、絶対に盗みには関与しないという信条を示した口伝だ。だからこそ窃盗に手を出した組員は破門処分にされても仕方がない、ということになる。
「詐欺は破門」という口伝もある。昔からヤクザは、「カタギさんには迷惑をかけてはいけない」という信条を持つ。自分たちが詐欺の罪を犯さないだけでなく、口伝を拡大解釈して法律では裁けない悪質で巧妙な詐欺師を“退治”することも行われてきた。
詐欺罪に対するヤクザの厳しい姿勢は、多少なりとも暴力団にも引き継がれている面がある。ならば詐欺に関わった組員は破門になると解釈できるはずだ。
では昨今、社会問題化している特殊詐欺やトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)に関与した組員の処分はどうなっているのか。
某組長は「うちでは詐欺全般、理由の如何を問わず破門」と言う。
2008年5月に施行された改正暴対法による「指定暴力団の代表者等の損害賠償責任」の拡大強化により、組員による特殊詐欺事件の損害賠償責任は団体トップにも及ぶようになった。
このため特殊詐欺の被害者は提訴などの法的手段で、暴力団の組長や会長に対して使用者責任を問い、被害請求を行えるようになったのだ。
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