「詐欺は破門」の伝統はどうなる「特殊詐欺」への関与も見て見ぬふり…ヤクザの掟にも影を落とす時代の変化

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“チェック機能”は存在しない

 2021年には最高裁が指定暴力団のトップに賠償金の支払いを命令。さらに2023年には東京地裁で数千万円の賠償金を命じる判決が確定している。

「うちは判決が確定する前から、詐欺はダメにしている。昔からあったからね。詐欺の被害者から相談されたら、はっきり言って法律は関係なく、こっちのやり方で詐欺師を懲らしめた。それが俺たちの伝統的な役割なのに、俺たちが詐欺師と関わってしまったら、格好付かないどころか本末転倒でしょ」(同・某組長)

 しかし組員に対するチェック機能は存在しない。この組長は「組に秘密で個人プレーでやられたら、若衆(組員)が特殊詐欺やトクリュウに関わっていることが露見するまでは、処分のしようがない」と明かす。

 別の組長も同様に「うちも破門ですけど、組員ひとりひとりがどんなシノギをやっているのか、全てを把握することは難しいですよ」と言う。

「みんなで集まった時に、『詐欺は破門だからな』と口頭で注意するぐらいしかないです。その上で、あとは若衆のことを信じるしかないですよ」

 とは言え、特殊詐欺やトクリュウは秘密裏に行うことが肝だ。関与する組員が自分の正体を世の中に公開することは絶対にないだろう。詐欺が破門要件になっている組なら、わざわざ幹部に報告することもあり得ない。

特殊詐欺の犯人に同情する声も

 よって関与を秘密にしている組員は「組への裏切り」を自覚しているだろう。裏切りに対する組の処分や制裁も充分覚悟した上でのことなのだろう。そこまでしても一時の暴利を貪りたいのだ。

 警察庁によると、2023年の特殊詐欺検挙人数は2455人。このうち暴力団構成員などは439人で全体の5分の1から6分の1程度となっている。統計からは非暴力団員による犯行が圧倒的に多いことが浮かび上がる。

 しかし、ある組幹部は「やっぱり、やる奴はやるでしょう。破門覚悟で。今はもう、こういうのしかないって思って、組に内緒にして勝手に特殊詐欺をやっちゃうんでしょう」と、ため息交じりで言う。

「一般の人たちも今はどの業界でも大変でしょう。働いても働いても稼ぎにならない。特に若い人なんかは社会に夢を持てないんじゃないですか。カネが全てとは言いませんが、稼げない世の中で借金でも抱えたら嫌気がさしてきて、『もう闇バイトや特殊詐欺をやるしかない』ってなっちゃうんじゃないですかね。他に稼ぎ口がないですから。それで捕まって懲役に行って、数年後に刑務所から出て来たら、ブランクが足かせになって行く所がなくて、俺たちのところに入って来る。けど、こっちでも稼げないからまた特殊詐欺をやって、破門になって弾き出されたら、そういう人はどこに行けばいいんですかね?」

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