「詐欺は破門」の伝統はどうなる「特殊詐欺」への関与も見て見ぬふり…ヤクザの掟にも影を落とす時代の変化

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詐欺を許す組も

 別の組幹部は「ヤクザってのは社会最下層の住人です。けど、最近の社会はヤクザの下というか、ヤクザも務まらないような感覚を持った若者を作り出してるような気がしますよ」と嘆く。

 国としては特殊詐欺やトクリュウに対する取り締まりを強化するだけではなく、行き場を失ったり、貧困にあえいだりする若者に対して何らかの救済措置を講じる必要があるのかもしれない。

 そして特殊詐欺やトクリュウは、“暴力団業界”の中でも注目度が高まっている。ある組の幹部は「確かに詐欺に関連する行為は昔なら破門でした。それが当代(現在の組長)になってからは変わりましたよ」と言う。

 この組では現在、破門要件に詐欺は入っていないという。先述した通り、処分の判断は組長の裁量が大きい。昨今、暴力団の活動に対する締め付けが厳しいことから、この組では組織維持のため、いわゆる“シノギの枠”を広げたそうである。つまり、詐欺OK。

 組長が「やれ」と指示まではしないが、「見て見ぬ振りをする」というサジ加減のようだ。ただし、「あまりに詐欺の内容が問題だと、場合によっては破門になる可能性もゼロではない」と組の幹部は付け加えた。

掟を再考する必要性

 組織維持のため詐欺を許すようなやり方を選ぶからこそ、いつまでも「暴力団は犯罪者集団」、「反社会的組織」と批判されるのかもしれない。

 一方の暴力団は詐欺を許容することで、“行き場がなくなった人々”の新たな受け皿となる可能性なきにしもあらず、と自分たちを弁護するのだろうか。

 いずれにしても時代の変化が、暴力団の性格に大きな影響を与えるようになってきた。破門ですら時代の影響を受けている。

 しかし、仮にも暴力団がヤクザ渡世に起源を持ち、破門というものが“掟”と表裏一体であるならば、社会潮流に左右されることなく伝統を貫いてほしい。

 よく組長の命令は絶対だと言われるが、それは自由の存在しない主従関係や奴隷制度のような絶対的支配を意味しているのではない。

 組長の命令は“掟”から発せられているから絶対なのだ。暴力団は今一度、「破門とは何か?」、「掟とは何か?」と自問自答すべきではないだろうか。

藤原良(ふじわら・りょう)
作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。著書に『山口組対山口組』、『M資金 欲望の地下資産』、『山口組東京進出第一号 「西」からひとりで来た男』(以上、太田出版)など。

デイリー新潮編集部

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