逮捕から1カ月 再生と破壊を繰り返す“ヒロスエ”という生き方

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子ども返りと“再生”のスイッチ

 女優業も安定し,音楽活動も再開していた2023年、料理人との不倫が発覚。彼女は一気にすべてを失った。今年に入ってようやく地上波のテレビ番組に出演、映画のロケのために奈良に行き、そして今回の「事件」である。

 がんばりすぎるがゆえに限界が来ると,突発的に不可解な行動を起こしてしまう癖は確かにあるのかもしれない。だが、それはもしかしたら彼女自身による「破壊と再生」なのではないだろうか。

 もともとは社長ふたりで始めた前事務所を昨年退所し、彼女は個人事務所を立ち上げている。不倫の件で事務所から「無期限停止処分」をくらったことに反発したとも言われているが、今回も事務所に彼女を全面的に助けるブレーンがいたら、こんなことにはならなかったかもしれない。事務所に所属しているアーティストが独立して、自分の仕事に関わるすべてに目を通して交渉、判断していくのは、予想以上に大変な作業のはずだから。ヒロスエは社長業にも疲れ果てていたのではないだろうか。

 気になったのは、釈放されたとき彼女の右足甲から足首にかけて痣が広がっていたこと。看護師へのローキックの証拠かもしれない。どうにもならない暴力的なスイッチが入ってしまったのかもしれないが、あの痣を見れば,相当に力がこもっていたことは間違いない。さらに看護師の腕をひっかいたようだが、「ひっかく」という言葉を久しぶりに聞いた。大人は他人をあまり「ひっかいたり」しない。どちらかといえば幼稚な行為だ。蹴ったりひっかいたりというのは、突然、駄々っ子になったとしか思えない。パニックに陥って子ども返りしてしまったのだろうか。それもまた、彼女自身が新たな再生をする過程なのか。

 などと考えていたら、5月2日、彼女が「双極性感情障害」と「甲状腺機能障害」であり、当面は芸能活動を中止すると発表された。双極性感情障害は、そう状態とうつ状態を繰り返し、甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモンが過剰分泌され精神的に不安定になる病気だという。この2つを併発するのは珍しいらしいが、ダブルパンチ状態で心身共によほど疲弊していたのではないだろうか。現在は通院治療中だという。

 2022年に公開された映画『あちらにいる鬼』では、寺島しのぶ、豊川悦司というダブル主演を完全に食った演技とまで言われた助演の広末涼子。瀬戸内寂聴と井上光晴の不倫を描いたこの作品で、彼女は井上光晴の妻を演じている。嫉妬の感情を露わにせず、そのうち夫の不倫や他の女性との浮気までをも飲み込むように受け入れていく。女性が自宅にやってきても、彼女は悠然とお茶を飲んでいる。夫が女性を連れ去っていくのを見ながら、再びお茶を飲み、「ああ、おいしい」とつぶやいたときの彼女の表情が、菩薩のように見えた。

 傷害事件を擁護するつもりはさらさらないが、女優として確実に進化してきたことは確かである。病気を克服し、今回の件もいつか「あの頃は……」と振り返ることができるようになることを密かに願っている。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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