「社長、プロレスラー猪木は私との合作ですよね?」…“過激な仕掛け人”新間寿さんが生前に明かしていた“猪木ヘの思い”

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「恩讐の彼方より、戻ってまいりました」

 新間の葬儀には、初代タイガーマスク(佐山サトル)も列席していた。初代タイガーと新間と言えば、佐山が修業先のイギリスから緊急帰国してタイガーに変身するプランを立てるも、現地で税金を払っていなかったため出国出来ず。新間が懇意にしていた福田赳夫元総理大臣に連絡を取り、超法規的措置で出国させたという伝説がある。

 新間は政財界にも顔の利く人物だった。

「1989年かな、猪木から連絡があったの。『ソ連(当時)の柔道連盟の会長だったバグダーノフ将軍が、元首相経験者と写真を撮りたがっている。新間、何とかならないか?』って。私は福田(赳夫)さんに連絡を取ったら快諾してくれた。面白かったのがね、その頼みに行った席に、森喜朗さんがいたの。そしたら森さん、『ソ連の柔道連盟の会長か……。よしっ、私も行こう!』と言ったんだけど、私は、『あの……今回はあくまで、首相経験者ということで……』と。俺、色んなこと頼むより、よっぽどあの断りの時の方が緊張したよ!(笑)」(※森喜朗は2000~01年に総理大臣)

 前述のように、猪木が立ち上げたスポーツ平和党にも参画した。

「猪木から『手伝って欲しい。新日本プロレスのフロントと相談して欲しい』と言われたから、フロントに『選挙のプロが必要だね』と持ち掛けたら、『えっ!? 新間さんがいるじゃないですか!』と(苦笑)。私は党本部の電話の横に、教育勅語と歴代の天皇陛下の一覧を貼りましたよ。右翼対策にね。文句の電話をかけて来たら、「あなた、右翼を名乗るなら、教育勅語、言えますか? 歴代の天皇陛下の名前、順に言っていって下さい。私は言えますよ。『朕 惟うに 我が皇祖皇宗……』。そうやると、10人中9人は電話を切っちゃったね(笑)」

 猪木は無事当選するも、1993年、公設秘書の女性に数々の不正を糾され、95年の参院選では落選した。

「猪木は金銭的に凄くルーズだし、秘書の女性の義憤はあったと思います。そういえば私がアメリカで発売されたマドンナのヌード写真集をお土産に持って帰ったら、事務所の女性たちが中身を見て『私の方が勝った!』とかキャッキャと騒いでる。そしたら猪木が奥で、『馬鹿な奴らだなあ。自分とマドンナを比べるなよ』と。私は『仰る通りでございます』と返したんだけど、こうも言いました。『でも社長(猪木)、女というものは、敵に回すと恐いですよ』。その通りになったよね(苦笑)」

 この騒動で、新間も猪木から、スポーツ平和党の幹事長を解任された。

「『金銭的な疑惑があった』という理由でね。それは、猪木が周囲の人間を辞めさせたい時の常套句なんです(苦笑)。ところが、テレビを視てビックリしたのは、新宿でウチの女房と娘が、“アントニオ猪木の議員辞職を求める”署名活動をしてるの! 家族としても俺が解任されたのは悔しかったんだろうね。そしたら、それを報じていたある民放にテロップが流れて。“アントニオ猪木議員の辞職を求める署名は、こちらへお送り下さい”って、出たのがウチの住所! 翌日からわんさかと署名が届いて。段ボール4箱分くらいあったんだよ! 民放には、「政治的なことに番組を利用すべきでない」って抗議が来たらしい。考えてみれば当たり前のことだよね(笑)」

 この騒動を聞いた前田日明が、「いつものことやで。あの2人はそのうちまた仲直りするわ」と口にしていたという話もあるが、実際、2002年に和解している。

「うん、再会はこの店でした(『P』)。俺は『恩讐の彼方より、戻って参りました』と挨拶したんだけど、猪木を見たら涙が止まらなくなって。そしたら、猪木も泣いてた……」

「プロレスラー・アントニオ猪木は私と社長の合作」

 プロレスラー・猪木を語る時、少年のような表情になった。猪木ファンを自称する関係者は何人も見て来たが、新間こそ1番の猪木ファンだったと断言出来る。

「猪木はね、俺に物事を依頼する時に、『新間、お前にしか頼めないことがある』と切り出すの。そうすると俺も燃えちゃってさあ! 俺の性格をよくわかってるよ。言われて嬉しかった言葉? そうだなぁ」

 それはある日、新間が猪木にこう語りかけた時だった。

「社長。猪木寛至はブラジルが作りましたが、プロレスラー・アントニオ猪木は、私と社長との合作ですね?」

「すると猪木はニコッと笑ってこう答えたんだよ。『お前、上手いこと言うじゃないか』。振り返ると、あの笑顔にやられ尽くした人生だったよね(笑)」

 最後に、個人的に心に残った新間のプロレス観を挙げておきたい。それは、第1回のIWGP決勝での、猪木の失神KO負けに触れた時だった。

「猪木の失神も衝撃だったけど、坂口さんが翌日、『人間不信』と書き置きして失踪したこともショックで。病院に緊急搬送された猪木を見に行ったらいないし。看護師さんに容体を聞いたら、『舌を出して失神するのはあり得ない』と言われるし。私はリング外の人間だから、こういう状況は意味がわからなかった。例えば、全日本との対決を何度も画策した私だけど、その度に馬場さんが、『クリアすべき問題がある』と言うのもわからなかった。でもね、わからないまま、リングに青春を賭けられたことを、今では心から誇りに思ってますよ。猪木に憧れた全国のファンの代弁者として、色んな夢の対決を実現させて来たという自負があるから……」

 新間さん、数々の夢を見せてくれて、本当に有り難うございました。お疲れ様でした。

 天国に行った強豪たちを集めた真のIWGPの実現を、楽しみにしています。それはきっと新間さんにしか出来ないことですから。

瑞 佐富郎
プロレス&格闘技ライター。早稲田大学政治経済学部卒。フジテレビ「カルトQ~プロレス大会」の優勝を遠因に取材&執筆活動へ。近著に「プロレス発掘秘史」(宝島社)、「プロレスラー夜明け前」(スタンダーズ)、「アントニオ猪木」(新潮新書)など。

デイリー新潮編集部

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