原野を切り開いた「日ハム球場前」にタワマンを建てる… 無謀な開発が地域も日本も崩壊させる

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人口を奪い合っている場合ではない

 たとえば、東京都区部のように、あらたに人口が流入し続け、その人口の平均所得が高いという地域であれば、タワーマンションが維持管理され、住み替えが進み、必要とあれば修繕し、建て替え、あるいは再々開発につなげる余地もまだある。

 しかし、人口が減少し、産業の空洞化も進む地方都市でタワーマンションを建てることは、短期的には人口と税収の増加につながったとしても、中長期的にはリスクでしかない。すでに過剰になっているインフラを増設し、タワーマンションに人が集まった分、周辺地域のいっそうの空洞化を招き、中長期的には町全体が廃墟になっていく。

 もし、周辺の市区町村からの移住を促進したいと考えているなら、大いなるエゴにすぎない。避けようがない人口減少の局面において、地方都市が人口の奪い合いをしている場合ではないことは、いまさらいうまでもない。

 それにしても、なぜ、北広島市にかぎらず多くの地方自治体がいま、同じような轍を踏んでいるのだろうか。

 地方都市の再開発は、北広島市の「北海道ボールパークFビレッジ」もふくめ、多くの場合、小泉純一郎政権のもとで2002年に制定された都市再生特別措置法にもとづいて行われている。この法のもとでは、自治体が指定した都市再生特別地区では、用途地域や容積率などの規制が軒並み適用除外になる。結果、自治体とタッグを組む民間事業者は、ほかの地域と違ってきわめて自由度が高い開発を進めることが可能になる。

 このような規制緩和は、公共性が高いという理由で認められているのだが、問題は容積率などを特別に割り増しして建てられた住宅の戸数が、その地域全体を見渡したときに妥当であるか、評価することが義務づけられていないことである。

可否を判断する責任が自治体にある

 人口が減少している以上、長期的には地域の住宅の戸数も減らしていく必要があることは、論をまたない。どこかで戸数を増やせば、どこかが必ず空洞化する。空き家が増えて治安も悪化する。だが、実際に事業を進める民間企業は営利を目的としていて、地域の将来など考えない。また、建設するマンションについても、開発して売り切ってしまえば、将来への責任を負う必要はない。

 そんな民間企業に事業を主導させているのが、多くの地方自治体なのである。営利企業は売れるものならどんどん開発して売ろうとする。それに任せていたら、地域は疲弊し、いずれ崩壊する。営利企業を利用するにせよ、各自治体が強い主導権を発揮しなければ、地域の将来はない。

 それなのに、地方自治体が短期的な人口と税収の増加というニンジンに目がくらんで、将来の世代にツケを回し、地域の未来を奪っているのが、いまの再開発である。原野のなかに建つタワーマンションなど、将来、おぞましい廃墟になって地域を破綻に導く可能性がきわめて高い。

 建設する大林組は、そんなことは知ったことではないだろう。だからこそ北広島市が、中長期的な展望に立って、こうした開発の可否を判断する必要があるのである。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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