「オサマ・ビンラディン急襲作戦」を描いた映画2本の共通項とは…なぜかGWに多い“映画化された作戦”
世に数ある映画の中でも、実際の事件や出来事、人物を題材とした作品はかなりの数にのぼる。英米の諜報機関や特殊部隊による「オペレーション(作戦)」も定番の題材だ。特に日本のゴールデンウィーク時期は、後に映画化された作戦が多発している。休日の鑑賞作品を選ぶテーマにしてみてはいかがだろうか。
【写真】ミュージカルにもなった「ミンスミート作戦」、実際に突入するSAS…GWの「作戦」といえば
虚実の境を曖昧にする作戦
【1943年4月下旬~:ミンスミート作戦】
第二次世界大戦中の1943年、連合国は7月のシチリア侵攻を成功させるべく、侵攻拠点を欺く「バークレー作戦」を展開させた。この一部として英国軍が実行した「ミンスミート作戦」は、軍服を着せた死体に偽装書類を持たせて海に流し、ドイツ軍にその書類を読ませるという、スパイ映画を地で行く内容だった。この“死体を海に流した日”が同年4月30日である。
「オペレーション・ミンスミート ナチを欺いた死体」(2021年)は、作戦の始動から準備、成功までを描いた作品。作戦を主導する海軍情報部のモンタギュー(コリン・ファース)とMI5のチャムリー(マシュー・マクファディン)は実在の人物だ。“新鮮”な死体探しに始まり、架空の生い立ちや軍歴といったキャリアの考案、恋人から受け取ったラブレターの作成など、2人の綿密な準備はほぼ事実に即している。
その綿密さにより虚実の境が曖昧になっていく展開は、死体の“恋人役”を引き受けた女性職員のジーン・レスリー(ケリー・マクドナルド)を通じても描かれている。ただし、彼女をめぐるモンタギューとチャムリーの摩擦などは脚色の部分だ。
007生みの親が放つ存在感
虚実の境を象徴するもう1人の登場人物はイアン・フレミング(ジョニー・フリン)。ご存じ「007」シリーズの生みの親は、現実でもこの作戦の発案者だった。登場シーンはさほど多くないものの、モンタギューたちを観察する目でタイプライターを打つ彼は、モノローグの役割も果たしながら虚実の間を行き来する。
作戦の土台は、敵を欺く欺瞞工作のアイデアを並べた実在の海軍文書「トラウト・メモ」。28番目のアイデアとして死体を使う方法が記されたこのメモは、海軍提督のジョン・ゴドフリー(ジェイソン・アイザックス)が発行したものだ。本作の原案本を執筆したベン・マッキンタイアは、部下のフレミングが書いたという説を肯定している。
本作には「007」誕生前夜を匂わせる部分も多い。彼に「M」と呼ばれるゴドフリーは実際に「M」のモデルであり、作戦に必要な道具を担当する部署は「Q」を思わせる。展開にスピード感を与えるデビッド・エインズワース(ニコラス・ロウ)は、ボンドのモデルといわれる人物を組み合わせたようなキャラクターだ。
スパイ小説の大家ジョン・ル・カレなど、英国の作家やジャーナリストには元諜報員あるいは諜報機関の関係者が多い。英国の諜報機関が繰り返し物語の舞台となる理由は、生臭い現実と創造性を奇妙に共存させるこの組織こそ、まさに虚実の間に存在しているが故だろう。
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