赤ちゃんは「水筒」をもって生まれてくる!? 30年「20頭の飼育歴」だから知っている「パンダの秘密」

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 1994年9月にメスの蓉浜(1997年永眠)、オスの永明(2023年桜浜、桃浜と共に帰国。2025年永眠)を迎えて以来、30年で20頭の飼育(うち17頭は繁殖に成功)に携わった「パンダチーム」。

 長期の研究とふれあいがあるからこそ知っている生態について『知らなかった! パンダ―アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ』から紹介する。

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パンダの赤ちゃんは未熟で生まれてくる

 パンダの赤ちゃんの平均体重は100~200グラム。お母さんの平均体重が100キログラムですから、大きく生まれても500分の1しかありません。さらに目も開いておらず、毛も生えていなくて、何もしなければすぐに体温が下がってしまいます。

 なぜ、こんなに未熟に生まれてくるのでしょうか。

 それは、パンダの主食が低カロリーの竹だからなのです。交配後、食欲が増して、たくさん食べて体力をつけようと体が変化しますが、それは母体が出産・授乳という大仕事に臨むため。母体の出産の準備が整うと赤ちゃんが育ち始めますが、体力を維持しながら赤ちゃんもある程度育てるには、竹だけでは十分な栄養が摂れないのです。

 未熟で生まれたからには、お母さんはそれこそ肌身離さず赤ちゃんを育てます。常に腕に抱いて、舌でなめながら温めつづけます。そのため自分の食事もままならなくなりますが、栄養たっぷりの母乳も出し続けなければなりません。

 小さく産んで、愛情たっぷりにお世話をして大きく育てる―それがパンダの子育てです。

赤ちゃんは水筒をもって生まれてくる

 とても小さく未熟に生まれてくる赤ちゃんですが、生きていくために最低限のものは備えています。

 まずは、大きな声で鳴く力。産み落とされた小さな小さな赤ちゃんを、体が大きくて小回りが利かず、まして視力もよくないお母さんが確実に見つけてくれるには、とにかく鳴いて「ここだよ!」と知らせなくてはいけません。生まれてすぐ、小さな体からは信じられないような大きな声で鳴きます。

 大きな鳴き声――これは、赤ちゃん自身が生きるための武器でもあります。人間もそうですが、おなかが空いた、寒い、うんちがしたい……どんな要求も、赤ちゃんには泣いてお母さんに知らせるしかありません。さらにいうと、だからこそ、パンダのお母さんは「赤ちゃんが鳴かない」=「すべてに満足した状態」と思ってしまいます。すると、お世話はしなくていいんだな、と勘違いするのです。つまり、大きな声で鳴かなければ、赤ちゃんは命の危険にさらされてしまいます。

 また、赤ちゃんはまだ4本の肢で立てませんが、頭を振り前肢をふんばってとてもよく動きます。これも目立つようにするアピールでしょう。

 そうして自分の居場所を教えて、お母さんが無事に抱いてくれたら、今度はなにより大事なおっぱいです。

 赤ちゃんの口は、小さな体にしてはとても大きく開きます。大きなお母さんの大きな乳首をふくむためです。

 パンダの乳首は胸にふたつ、おなかにふたつ。全部で4つが離れてあります。

 お母さんは抱っこしている赤ちゃんが、おなかが空いたと鳴いたら乳首まで押しやってくれますが、最後は自力で乳首までたどり着かなくてはなりません。そのために必要な、お母さんの体毛に引っ掛けて移動するための小さいけれども鋭いしっかりした爪。これも生まれたときから生えそろっています。爪を立てて毛皮の上を移動しながら、4つの乳首の間を動きます。

 そして、もうひとつ。

 赤ちゃんは体に比べてしっぽがとても長く、全長の3分の1ほどあります。

 生まれたばかりの赤ちゃんはしっぽにたくさんの水分を蓄えて、太く光沢があります。成長とともにしっぽの根元からは細くなり、3日齢頃にはしっぽの先のみ光沢が残り、徐々に消失します。

 このことから、しっぽは一時的な補水の役目――いってみれば、「水筒」になっていると考えられます。ペンギンやダチョウのヒナの足も水分を含んでプヨプヨしていますが、これも同じ理由でしょう。

 パンダは体が大きく成長してもしっぽは15センチほど、体毛におおわれた短いずんぐりしたしっぽになります。

『知らなかった! パンダ―アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ―』より一部を抜粋、再編集。

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