もうすぐお別れ! アドベンチャーワールドの「16頭の子だくさんパンダ」永明の素顔

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 和歌山県白浜町にあるテーマパーク「アドベンチャーワールド」のお父さんパンダ・永明(えいめい)と、その子どものメスで双子の桜浜(おうひん)と桃浜(とうひん)が、2023年2月に中国に旅立つことが発表された。

「ブリーディングローン(繁殖貸与)」という制度で中国から来日したパンダは、生まれた子も含めていずれは中国に戻るという取り決めになっている。双子については、8歳になり、将来のパートナーを見つけるために中国へ、というのは前向きな出発といえる。

 一方、永明は30歳、人間に換算すると約90歳と高齢。そのまま住みなれた場所に、とも思うものの、実は現在の飼育下で「自然繁殖に成功した最高齢」を自ら更新し続けた世界でも、まれな子だくさんパパ(パーク内で生まれた17頭中16頭が永明の子ども)。本国にある研究施設で余生を送りながら、自然繁殖の研究にこれから一役も二役も買うという大事な任務が待っているという。また、昨年12月には、中国駐大阪総領事館より「中日友好特使」にも任命されている重鎮なのだ。

 では、その永明とはどんなパンダなのか。

『知らなかった! パンダ―アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ―』から紹介しよう(本文データは2022年11月現在)。

16頭の子だくさん

 アドベンチャーワールドではこれまでに17頭の子どもが誕生しています。そのうち、2001年生まれの雄浜(ゆうひん)以降、16頭の父親が永明です。

 1994年9月6日に、2歳になる直前だった永明は、2歳になったばかりのメスの蓉浜(ようひん)とともに中国四川省成都から来日、2頭ともまだ幼さが残る子どもでした。オスの性成熟期(生殖が可能になる年齢)は6~7歳、メスは4~5歳といわれていますから、2~4年かけて日本の白浜の気候と環境に慣れて、ペアになり新しい命が誕生することを願っていました。

 ところが1997年7月に蓉浜が急逝。永明は一人ぼっちになってしまったのです。

 その後、3年におよぶ次のお嫁さん候補さがしを経て、2000年7月7日の「七夕」の日に、7歳の永明のもとに、2歳年下の梅梅(めいめい)がお嫁さんとして来日しました。

 実は、この時、梅梅のおなかのなかには、のちに良浜(らうひん)と命名される赤ちゃんがいました。

 来日前の2000年春に、中国で人工授精を受けていたのです(赤ちゃんの父親は当時推定16歳のオス・哈蘭=ハーラン)。そして梅梅は来日の2か月後、9月6日に無事出産しました。赤ちゃん・良浜がすくすくと育つのと同時に、永明と梅梅のペアリング計画が進みます。

 以後、2001年12月17日生まれの雄浜を筆頭に、永明と梅梅の間には4回の出産で6頭(オス5頭、メス1頭)が誕生しました。しかし梅梅が2008年10月15日、突然、この世を去りました。スタッフはもちろん、ゲストのみなさんにもとても惜しまれた別れでした。

 でも、永明には良浜がいました。

 パンダの交配には、相性が何よりも大事です。一度、失敗してしまうと、その後はほぼうまくいきません。梅梅とも、その娘の良浜とも、永明は本当に好相性でした。良浜はこれまでに7回の出産で10頭(オス2頭、メス8頭)を出産しています。

人間でいうと90歳!

 永明は2022年9月に30歳になりました。人間に換算すると90歳ぐらいと推定されます。

 飼育についても、高齢であるという点に一番注意を払っています。持病などはないのですが、足腰の衰えはどうしても免れません。

 特に衰えがちなのは後肢。竹の葉を詰めたサンドバッグをつるして立ち上がって遊べるようにしたり、運動場の遊具は、登り降りでトレーニングができるようにもしています。

 また、普段の歩き方などを注視して、少しでも異変があったら、すぐに獣医師に診てもらうなどの対応をしています。

 でも、食欲は旺盛でとっても元気です。

 ほかのパンダと一緒で、基本的に食べて寝る生活です。活発に遊んだり動き回ったりはしませんが、陽だまりを見つけてはゆっくりゆっくり歩いて行って、気持ちよさそうにお昼寝してすごしています。

 手足が長く、鼻筋が通った顔立ちの永明は、とにかく、竹に関してグルメです。

 来日当初食べていたのは、中国で与えられていたものと同じエサでした。内容はパンダ団子(トウモロコシの粉、ふすま、ニンジン、卵などを練って蒸したもの)、リンゴ、ミルク。そのため、本来、主食であるはずの竹は少量しか食べていませんでした。

 しばらくして、永明のおなかの調子が時折悪くなることなどもあって、当時の飼育スタッフや獣医師たちは竹メインに切り替えてみることにしました。

 しかしいきなり、エサはすべてを竹に、とはできません。永明がよく食べる竹を吟味して準備し、エサの全体量のうち竹を食べる割合を徐々に増やしていくことにしました。竹探しはまず、白浜の近隣から始めました。「こっちがいいかな? あっちはどうかな?」と季節により竹の種類や部位を変えて与え、6年ほどかかって竹主体のエサに切り替えることができました。現在は安定して、一定の質の竹が仕入れられる供給元に落ちついています。

 このようにして、永明の食いつきがよりいい竹を、と種類や生えている場所を変えて試した結果、えり好みが激しくなってしまったようです。飼育スタッフにとっては、日々、気にいってくれる竹を選んで与える苦労はありますが、竹が豊富な日本だからこそできる苦労かもしれません。

 スタッフは毎日、仕入れた中から、永明が好きそうな竹をまず最初に選びます。

 台風などで海風の流れを受けて塩分が付着したものはダメ、自動車の排気ガスを浴びているものもダメ、老いすぎもダメですが、若すぎもダメ……。

 葉つきのいいものが基本。どちらかというと小さめの葉っぱが好みのよう。茎はその時々で細めを好んだり、かと思うとしっかりした太めの茎を選んだり。また、「きいくき(黄い茎)」と呼んでいますが、幹から出て葉のつく茎の部分が黄色、あるいは黄色と黒のまだらになっているものは、確率的に選ぶことが多いよう……。そのような、これまで永明の食いつきのよかった竹の見た目をスタッフで共有して、「これなら」と思うものをその都度選びます。

 ところが、いざ与えると、手には取るのですがクンクンとにおいをかいでポイ、あるいは「きいくき」を入れたのに見向きもせず青い茎のものばかりを食べる、なんてこともしょっちゅうです。何が気に入らないのか、こちらは首をかしげるばかり。本当に竹にはきびしい(もう! わがまま! と思うことさえあります)。でも、竹を食べる量が足らないと体調が悪くなってしまう可能性もあるので、スタッフは毎日必死です。

 永明の食事スタイルも独特です。

 座った状態で後ろの右肢を上に向け、その足裏に同じ右側の前肢ひじのあたりをのせ、その前肢に竹を持って食べるのです。アドベンチャーワールドでは永明だけがする得意技。前肢をずっと口まで上げていると疲れるからのせちゃおう、ということかなと思います。

 のんびりしているお父さんパンダですが、こんなこともありました。

 2017年、永明が24歳の冬。白浜は比較的温暖な気候で、冬もめったに雪は降りませんが、ある寒い日、珍しく雪になりました。

 バックヤードから運動場へのとびらをあけたとたん、永明はかけ出して、子どものパンダみたいにはしゃいだように木に登ったり、雪の降る中で寝転んだり。冷たいものが好きですから、本当にとてもうれしそう。ほほえましい姿でした。

 永明はとにかく優しくて穏やかな性格だと思います。ほかのパンダたちが柵越しで触れられる位置にいると、明らかに威嚇(いかく)とは違う動きで前肢を出したり、興味深そうにじっと見ています。

 それと、「甘えん坊」なところもあります。スタッフが自分以外のパンダに集中していると、自分を見て!と気を引きたそうにじっと見つめてきたり、鳴いてアピールをしてきます。

『知らなかった! パンダ―アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ―』より一部を抜粋、再編集。

デイリー新潮編集部

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