トランプ大統領は「保守政治家ではなく、むしろ無政府主義者」と専門家が指摘…無理難題を吹っかけるトランプ政権に日本が採るべき“唯一の方法”とは
トランプ大統領と保守思想は無関係
アメリカの西部開拓は1803年のルイジアナ買収に始まり、1890年のフロンティア消滅で終わった。『大草原の小さな家』は西部開拓時代を背景に、両親と3姉妹がたくましく生き抜く姿を描いて圧倒的な共感を集めた。家族は慎ましい生活を送りながら深い愛情で結ばれ、家族の力だけで大自然を開拓していく。確かにアメリカにおける保守思想の源泉の一つだろう。
「トランプ大統領は父親の不動産ビジネスを引き継ぐと、高層ビル、ホテル、カジノ、ゴルフコースといった事業拡大に成功しました。彼の人生から質素や倹約といった単語や、プロテスタンティズムが本来持つ厳格な性規範などは見いだせません。むしろ享楽的なライフスタイルを誇示し、不倫相手の口止め料を巡って裁判が開かれて注目を集めました。この点からもトランプ大統領と保守主義は何の関係もないことが分かります」(同・古谷氏)
日本だけでなくアメリカでも「エリート階層を象徴する名門大学を攻撃すれば、トランプ大統領の支持者は歓迎する」という指摘は少なくない。だが、この理解しやすい分析を古谷氏は「事実とは異なる可能性があります」と指摘する。
「トランプ大統領は主に2種類の人々から支持を集めています。1つ目は陰謀論の信者です。トランプ氏は陰謀論者の支持で選挙に当選した初めての大統領でしょう。2つ目は地方の郡部や農村部に暮らす人々です。彼らは本来なら穏健な政治思想に共鳴する層も多かったはずですが、何しろ首都のワシントンどころか州内の州都も訪れたことのないような人々です。アメリカ経済の成長からも、知的な議論からも取り残され、コミュニティの中だけで生きてきました。そうして生まれた閉塞感から、トランプ大統領の『アメリカを再び偉大な国にする』というスローガンに素朴な共感を示した有権者層だと言えます」
極右と極左の“接着点”
陰謀論者や地方在住者にとって、アイビー・リーグに属する名門大学との距離は物理的にも精神的にも遙かに遠い。トランプ大統領と対立しているという事実すら把握していない可能性があるという。
「アメリカの地元密着型のメディアが壊滅状態にあることは背景として重要です。特に、これまで地に足の着いた報道を担ってきた地方紙は全滅と言っていいでしょう。何とか地域のラジオは機能しているとしても、3大ネットワークが報じる全国ニュースは地方の住民にとって何の関係もありません。新聞を筆頭にした大手メディアの影響力低下によりネット上でフェイクニュースが拡散するのはアメリカだけでなく日本も同じですが、日本は国土が狭いという利点があります。トランプ大統領とハーバード大学の対立も海外ニュースとしてある程度は日本国内で流布するわけですが、広大なアメリカでは限界があります」(同・古谷氏)
トランプ大統領の政治姿勢から思想性を無理矢理に引き出すとすれば、「アナキズムを見出すことは可能かもしれません」と古谷氏は言う。
「気に入らないものは何でもぶっ壊すという姿勢は、アナキズム、無政府主義の亜種とは言えるでしょう。アメリカのリバタリアニズムは『自由至上主義』などと訳され、政府の介入を極端に嫌うことなどから思想的には極右に位置づけられることもあります。リバタリアニズムの影響が強い保守派の政治運動にティーパーティーがあり、彼らは基本的にトランプ大統領を支持しています。アナキズムは極左ですから、極右のリバタリアニズムやティーパーティーと“極端”な思想という点では通じあうところがあるのです」(同・古谷氏)
[2/3ページ]

