お笑い「賞レース乱立」のメリット・デメリット 芸人は過労リスク&視聴者の“飽き”問題も

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魅力的なフォーマット

 賞レースが増える理由の1つは、テレビ局にとってそれが魅力的なフォーマットだからだ。まず、予選を勝ち抜いた芸人たちが披露する渾身のネタが番組の軸になっているので、ある程度の面白さが保証されている。しかも、勝敗の結果が最後までわからないので、そこで視聴者を惹きつけることができる。

 さらに、ドラマチックな展開になりやすい賞レースはSNSとの親和性が高く、放送直後にネタや結果が拡散され、トレンドに上がりやすい。リアルタイム視聴率とネット上での話題性を同時に狙える理想的なコンテンツなのである。

 一方、芸人側にとっても、出場機会が増えることは歓迎すべき状況である。「M-1」以降、賞レースは「売れるための最短ルート」となり、若手はもちろん中堅やベテランにも新たな活躍のチャンスが広がった。たとえ優勝できなくても、決勝進出や審査員とのやり取り、SNSでの拡散などによって注目を集めることができるため、出演そのものがプロモーション効果を持つようになっている。

 ただし、賞レース乱立にはデメリットもある。大会が増えすぎた結果、視聴者にとっては食傷気味なところもあるし、芸人側もずっと戦いを強いられてしまうことになるため、消耗が激しくて疲れてしまう。また、賞レースが増えることで個々の大会の価値が薄まってしまう懸念もある。

 それでもなお、賞レースは増え続ける。なぜなら、「競い合う」という構造こそが視聴者の興味を最大限に引きつけ、芸人の魅力や実力を際立たせる最も効果的な演出だからである。「M-1グランプリ」が切り開いたこの道は、さらに枝分かれしながら、お笑い界の活性化に貢献し続けることになるだろう。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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