「3億円事件以来の見事な知能犯」との声も…破綻銀行から白昼堂々と「1億円」を盗み出した平成の「連続詐欺・窃盗」事件

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店内を悠々と“査察”したニセ財務局

 そして、予告から50分後。

「先ほど電話した財務局の者だが、7億円を確認したい」

「検査」マークの入った腕章をし、『近畿財務局』名入りの布製手提げ鞄を持った50~60歳の年配の男が現れた時は、

「この小道具に騙されて、もう誰も、男の正体を疑ってみなかった。だから身分の確認どころか、名刺一枚もらわなかったのです」(地元記者)

 店内を悠々と“査察”するニセ財務局員に職員数12~13人の小さな支店内は緊張しっ放しだったとか。やがて外出から帰った前支店長、現在は本店営業部長のAさんが犯人と応対するが、

「すぐに金庫室の7億円を応接室に運び込むよう命じられたAさんは、1個1億円の包みを次々と犯人の前に積み上げていくのです。そして彼が5個目を運んでる隙に、犯人はその内の1個を盗んで正面入り口脇の通用口を通り、待たせてあったタクシーでトンズラしてしまった」(同前)

 その間わずかに20分。ところが、男の姿が消えたのは「トイレにでも」と思い込んだAさんは、その後も1億円の包みをセッセと選び続け……7個全部を積み終えたところで、やっと異変に気づくのだ。おかげで警察への通報も30分近く遅れてしまう。

内部事情に精通

 犯人の堂々たる演技ぶりに乗せられた前支店長のお人好しぶりは気の毒になるくらいだ。で、身分を利用された管財人の一人も、「前代未聞の出来事です」と絶句するばかりなのだが、捜査に当たった警察関係者はこう首をかしげる。

「犯人は妙に内部事情に精通していてね。例えば経費切り詰めで、通用口に配する職員を以前からカットしていたことや、店内のビデオカメラを作動させていなかったことなども事前に承知していた」

 一方で通用口側の24時間作動カメラは巧みに避けたらしく、犯人の姿は肩口から下しか映っていなかった。

「また、管財人検査に備えて、各支店の現金残高を確認するよう支店長会議で決まったのは4月21日だったしね。そのタイミングの良さから我々も、商銀内部の共犯者の存在を真っ先に疑ったが……今のとこ怪しい人物はいない」

 しかし、犯人は商銀からタクシーを乗り継いで逃走し、しかも途中で別の男と接触。立ち話をしていた様子が運転手によって確認されていることから……冒頭の佐木隆三さんは、こう推理するのである。

「その第二の人物は信組関係者か、または、そうと知らず情報提供したり、協力してしまった内部の人間ということは、充分に考えられますね」

(以上、「週刊新潮」2001年5月17日号「破綻『京都商銀』で白昼堂々1億円持ち逃げの怪」より)

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