日本人が知らないトランプ関税“ウラの理由”…「メキシコ」「カナダ」「中国」を槍玉に挙げた背景に“今そこにあるドラッグ危機”

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アメリカはフェンタニル危機から脱却できるか

 いずれにしても、トランプ政権からは特効薬となるような具体的な政策は示されておらず、パデュー・ファーマ社の法廷劇すら決着していない現状の中で、喫緊にフェンタニル問題が解決するとは思えない。

 では、病めるアメリカは、このフェンタニル危機からどうやって脱却するのだろうか? 

「アメリカは80年代に社会問題化した“クラック危機”から何も学んでいない」という厳しい意見は確かに存在する。しかし、これはどの国でも同じだろう。新しく発生したウイルスが世界に飛散するように、新しいドラッグパンデミックが始まり、世界中の人々を蝕んで行く。これを沈静化させるには、まん延防止措置だけでなく、治療が必要だ。そして治療には金がかかる。幸いにも日本には、前回の記事についたコメントにもあったように優れた医療保険制度があり、誰もが平等に治療が受けられ、高額療養費制度もある。その上、薬物障害は保険が適応される疾病と認められている。

 しかし,アメリカは医療制度そのものが自由診療制で、自治体によって若干の差はあるものの医療費がケタ違いに高い。救急車は走行距離制の有料で、救命士が乗車すると料金は極端に上がる。予約なしで診察を受けるのも難しく、簡単な手術でも1万ドルはかかる。民間保険の掛け金も高く、納得のいく医療を受けるためには高額保険に入らなければならない。

 メディケアやメディケイドという高齢者や障害者等社会的弱者向けの公的保険制度はあるが、何かと要件が厳しく誰でも加入できるものではない。

アンドリュー・コロドニー博士の声明

 何年か前の話になるが、アメリカのオピオイド政策研究共同体の医療ディレクターであるブランダイス大学(Brandeis University)のアンドリュー・コロドニー(Andrew Kolodny)博士がPBSニュースでこう言っていた。

「効果的な治療を受けやすくすることが重要だ。そして基本的に無料でなくてはならない。エイズ危機(1981年~)の際、HIV感染者は支払い能力の有無にかかわらず、抗ウイルス治療を受けられるようにしようと国として決定した。それが現在のオピオイド危機でも必要だ。ところが国から聞こえてくるのは、州に対する連邦政府からの1年あるいは2年の支援のみ。これじゃ適切ではない。州が必要とされる治療プログラムを策定し継続するには、長期的な予算あるいは新たな資金提供の枠組が必要だ」

 薬物対策は「予防」に「治療」に「社会復帰支援」、これが原則だ。犯罪対策の視点からいうと、これに密造・密輸の阻止や犯罪組織の壊滅が加わる。筆者もこれらをスローガンに長年薬物対策に携わってきた。これはどこの国でも同じだろう。ところが今のアメリカは問題のケタが違い過ぎる。毎日約273人以上が死んでいる。交通事故の比ではない。言い方は悪いが“戦争並み”だ。

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