体長2メートル、300キロの「巨大ヒグマ」が目の前に…「秋田八幡平クマ牧場事件」殺人クマ6頭と「猟友会」攻防の一部始終 「殺らなければこっちが殺られる」

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 13年前、2012年の4月20日に起きた「八幡平(はちまんたい)クマ牧場」事件。秋田県鹿角市にあった「八幡平クマ牧場」で、飼育されていたヒグマが檻から脱走。従業員女性2名が襲われ、犠牲となった事件である。「週刊新潮」は当時、事件の関係者に取材し、犠牲者が襲われ、そして逃げ出した6頭のヒグマが射殺されるまでの5時間を再現している。【前編】では、檻から脱走したクマによって、田中ハナさん(仮名=75)、田中シゲさん(同=68)の2名の女性従業員が襲われ、犠牲者となるまでの経緯を記した。【後編】では、決死の猟友会によって、クマ6頭が射殺されるまでを詳述する。
(「週刊新潮」2012年5月3・10日号の再録です。文中の年齢、役職等は当時のものです)
【前後編の後編】

 ***

 猟友会救助隊の1人、建設業を営むB氏(57)の元に出動連絡が入ったのは、午前10時半頃だった。

 猟友会の中でも一、二を争う射撃の名手だというB氏が述懐する。

「準備時間は10分。チョッキを着て、ブローニング・ライフル銃と“30-06弾”を車に積んでクマ牧場さ急いだ。11時半頃、牧場に着いた時には警察官が約5名、消防隊員が約10名、猟友会員は自分を含めて5人いた」

1頭目

 B氏は肩にライフルを担いで牧場入口へと近づいて行った。ほどなく、運動場に出来た雪山を乗り越えたその場所に、1頭のヒグマがいるのを発見した。

「体長1.5メートル、体重250キロはありそうな大きなクマだった。近くにシゲさんが倒れているのには気付かなかった。早く殺らなければこっちが殺られると急く気持ちがあった」

 射殺許可が出たのは昼12時頃。B氏はもう1人の猟友会員と共にヒグマににじり寄っていった。その距離、約20メートル。

「ハタチ過ぎからこの歳までそれこそ何十頭も熊を仕留めてきたけど、それは全部ツキノワグマ。ヒグマは初めてだから、致命傷を与え損なったらどれほど凶暴になるのか見当がつかなかった。俺は確実に頭を狙うことにした。腹這いになって銃身を固い雪山で支え、狙いを定めた」

 銃声――。

「最初に引き金を引いたのは、俺だ。一拍おいて、もう1人が撃った。同時に撃つと、火薬が炸裂する衝撃と音が増幅されて、場合によっては目眩を起こす恐れがある。そんなのは阿吽の呼吸だ。弾は確実に熊の頭部に着弾した」

 鳴き声を上げることもなく、その場に倒れるヒグマ。

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