世界を翻弄する「トランプ大統領」を読み解くカギは“プロレス”にあった! 反則技を非難してもヒールが引き立つだけ…「髪切りマッチ」に参戦したことも

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最も早くトランプに面会を求めていた日本人レスラー

 前出のタイガー戸口は、近年のトランプの言動を、こう結論付けている。

〈おとなしくしていたら、誰も振り向いてくれないんだから。すべてが計算づく。(中略)トランプのは劇場型を越えた「プロレス型政治」だ〉

 それでいてトランプは、“真実の誇張”を肯定した上で、自伝でこう続けている。

〈世間をだますことはできない。少なくともそう長くは無理だ。(中略)実際にそれだけのものを実行しなければ、やがてはそっぽを向かれてしまう〉
 
 第一次政権がまさにそれだった。医療保険制度(オバマケア)の撤廃や、メキシコ国境での「壁」建設といった政策を思うように進められなかった。共和党内で路線対立があったからである。その反省から、トランプは自身に相容れない議員の予備選には対抗馬を出すなどし、さながら「トランプ党」の成立を目指して来た。それは、はったりをはったりで終わらせないことでもある。議会を通さずに政府や軍に命令が出来る大統領令は、今年1月の就任以降、100本を越えており、バイデン前大統領が就任最初の年に署名した77本を早くも超えた。

 日米同盟についても3月6日には、「我々は日本を守らなければならないが、日本は我々を守る必要がない」と、極めて不満げに吐露していた。ところが同30日に日米防衛相会談が行われると、同盟についてこれまでの路線を踏襲して行くことが明らかに。不満もあるだろうが、これもまた一種の“真実の誇張”だった。新たに赴任するジョージ・グラス駐日大使は、長男夫妻が13年に亘って日本で暮らしており、言うなれば“親日派”。しかも、トランプからの信頼も厚いという。欧州の同盟国に対する突き放すような対応と比べると、先行きが暗いとも言い難い。

 実は日本の政治家で、第一次政権の前より、何度も非公式に面会を申し込んでいた人物がいた。他でもない、アントニオ猪木である(当時、参議院議員)。結局、トランプとの対面は実現しなかったが、当時の安倍首相とは個人的に話すこともあり、人脈を駆使しての対話の重要性を訴えていたという。北朝鮮の拉致問題について、猪木が筆者に語ってくれた自説が甦る。

「普段から会ってもない初対面の人に、何しろだのこうしてくれだの言われて、それを聞き入れる人っているのかなあと、私は疑問に思うんですよ。逆にそんなこと言われたら、普通は態度が硬くなっちゃうと思うんですね。だから、日頃からの対話が必要で、私の持ってる(北朝鮮との)人脈を、日本政府にフルに活用して欲しいと思ってるんですよね」

「トランプ党」が成立しつつある今、彼の“真実の誇張”、いわば牽制めいた批判は、より抜け目なく、今後も続いて行くだろう。それを受け、真意や問題点に、どこまで先回りして対応出来るかが鍵となるのではないか。

瑞 佐富郎 プロレス&格闘技ライター。早稲田大学政治経済学部卒。近著に『プロレス発掘秘史』(宝島社)、『プロレスラー夜明け前』(スタンダーズ)、『アントニオ猪木』(新潮新書)など。『世界の国々 おもしろクイズ1000』(メイツ出版)においては、ほぼ全問作成執筆している。

デイリー新潮編集部

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