谷村新司のCDアルバム復刻盤が“異例の高セールス”を記録し、サブスクでは新たなヒット曲も 「令和」で支持されるワケと人気楽曲の聴きどころを音楽マーケッターが解説

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 2023年10月8日、74歳で亡くなったシンガーソングライターの谷村新司。その翌年末から追悼企画がスタートし、谷村の誕生日にちなんだ昨年12月11日から今年4月9日にかけ、ソロ・アルバム23作品が続々と高音質CD(SHM-CD)で復刻されてきた。注目したいのは、その23作すべてが発売日の前日、いわゆる“フラゲ日”にオリコンCDアルバムのデイリーTOP50内、週間でもTOP100前後にランクインしていることだ。23作合計の初動売り上げは、週間アルバムTOP10級の約8,000枚を記録。これは異例の高セールスと言えるだろう。

 谷村のアルバムは、これまでも何度かCDで復刻されているが、今回のように高セールスになるのは初めて。現在は全音源がSpotifyなどのストリーミングサービス(定額聴き放題、サブスク)でも聴ける状況であるなか、購入特典目当てでもなく、純粋に彼の音楽を支持しているリスナーが多いというのは特筆すべきことだろう。彼が亡くなったことで、いっそう再評価が進んだとも言える。

過去の売り上げとSpotifyでの再生回数ランキングの順位は大きく異なる結果に

 今回の復刻での作品別売り上げは、23作すべてを購入する人が多いのか、当時ほど大差はついていない。しかし、Spotifyでの総再生回数を見てみると、作品ごとにわりと大きな開きがある。

 そこで、過去のフィジカル(LP+カセット+CD)での売り上げ枚数と、アルバムごとに集計したストリーミングサービス(Spotify)での総再生回数を調べ、ランキング表にまとめてみた。

 その結果、『昴-すばる-』と『抱擁-SATIN ROSE-』以外は、フィジカルとストリーミングとで順位が大きく異なっていることがわかった。やはり、令和において多くの人々に支持されている楽曲が収録されたアルバムは、ストリーミングで順位が伸びやすいからであろう。

 世間一般における谷村のイメージと言えば、高らかに歌い上げる熱唱バラードの定番「昴-すばる-」ではないだろうか。NHK『紅白歌合戦』では、16回の出場中、5回も歌唱している。さらに、『24時間テレビ』(日本テレビ系)の終盤、日本武道館で出演者が合唱する「サライ」(オリジナルの谷村新司と加山雄三も過去に参加していた)、山口百恵に提供した「いい日旅立ち」のセルフカバーがそれに続くだろう。実際、ストリーミングでは、この3曲の再生回数が突出している。

 ただ、ストリーミングは手軽に聴くことができるからか、それ以外の人気曲も出てきつつある状況だ。谷村のアルバムは作品ごとにコンセプトがガラリと変わっているので、むしろ人気にバラつきがあるほうが自然だと言えるだろう。しかし、どの作品も緻密に作られており、それぞれのリスナーが好きな角度から、“谷村新司ワールド”を楽しめるのではないだろうか。

 そこで、今回はその手引きとして、ストリーミングにおける再生回数が多いアルバム5作品をざっくり紹介してみたい。

第1位『昴-すばる-』(1980年4月25日)

 累計60万枚以上を売り上げたシングル「昴-すばる-」を収録した同名アルバム。夜の街を走り続ける様子に生き様を重ねた「Runnin' on -ランニング-」、わが子に温かな目線でエールを送る「マイ・ボーイ」、父の通夜での出来事をつづった「玄冬記 -花散る日-」、その父との想い出にひたる「残照」と、人生を綴った長編の楽曲が多い。その締めくくりとして、改めて「昴-すばる-」を聴くと、彼の死生観をより深く感じることができるだろう。“3通の手紙を大切な人に残しておきたいと”、7分近くかけてドラマティックに歌い上げる「この世が終る時(When the world ends)」も、本作らしい大作。

第2位『抱擁 -SATIN ROSE-』(1984年1月21日)

 LP+カセットでは、谷村新司のアルバムの中で最大ヒットとなった本作は、全10曲すべて女性が主人公のラブソング集だ。ラジオのリスナーにリクエストを呼び掛け、4年ぶりに『ザ・ベストテン』(TBS系)にランクインしたフォーク調のシングル「22歳」や、小川知子とのデュエット曲「忘れていいの-愛の幕切れ-」のソロ・バージョン「忘れていいの」、山口百恵への提供作「いい日旅立ち」のセルフカバーと、おなじみの曲も多く収録されている。それ以外にも、愛に溺れゆく「サテンの薔薇」、道ならぬ恋に気づく「ガラスの花」(高田みづえへの提供作のセルフカバー)などは当時のメロドラマ風で情景を想起しやすいし、歌声もひときわ情熱的。年下の彼との出会いと別れ、孤独への移り変わりを1本の電話で表現した「モーニング・コール」も秀逸だ。

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