高校無償化でも“公立王国埼玉”は名門「浦高」強し! 私立の人気が上がらない独特の受験システム「確約」の意外な実態

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開成や早慶を蹴って浦高に入学するケースも珍しくない

 Cさんが続ける。

「そもそも、浦和や大宮などの駅前に住み中学受験を志向する家庭と、別の地域に住んで高校を受験する家庭では考え方が全然違うのです。ただ、もともとお金がかからない公立を志望していた層は、高校でお金がかからないなら、と私立中を選択する家庭も増えるだろうと思われます」

 私立高の中でも上位層は、無償化の影響はほぼないとCさんはみる。県内には慶應志木、早稲田本庄、立教新座などの大学附属があるが、これらの名門高校に確約はなく、すでに人気も偏差値も高い。

「早慶が全滅して県立浦和高校(以下、通称の浦高と表記)に行く人は多いです。一方で、開成や早慶を蹴って浦高に行く人も珍しくない。授業料の問題ではなく、浦高や川越高校(通称かわたか)、春日部高校(通称かすこう)など地域トップ校は不動の人気があるのです」

 息子を浦高に通わせるDさんが話す。

「浦高は、第1志望で入学する子が7割、残りの1割は開成と筑波大附属の不合格組、2割が早慶不合格組という感じです。親が浦高出身、医者という家庭も多いですね。早慶では医学部に入れる可能性が高いとは言えないため、早慶に受かっても浦高を選ぶのです」

 早稲田は医学部がなく、慶應の医学部に附属から推薦で行けるのはごくわずか。それなら浦高を、というわけだ。また国立大志向も強いという。

「入学後最初の志望校調査では、東大や京大など旧帝大の名前が並び、そこにチェックを入れるのですが、私大名はそこにありません。1学年約360人中300人が東大にチェックを入れます。高3でも国立受験が前提で、国立文系と国立理系クラスはありますが、私大クラスはありません」

 今年も41人の東大合格者を出したが、そのうち現役合格は21人で約半分が浪人していた。Dさんも「浦高は4年生体育大学と呼ばれています」と笑う。

「運動部は週6日、伊豆で遠泳、50キロの強歩大会など、伝統的に運動に力を入れているのです。遠泳ではOBの医師がボートで待機するなど、みな母校愛が強い。一方で、校舎は夜9時まで開いていて、部活の後も教室で自主的に勉強します。『第一志望は譲らない』が合い言葉で、現役では国立しか受けません。浪人になって初めて早慶、MARCHを受ける子が多い」

 埼玉で国立大志向が強い風潮について、埼玉県の名門私立校に通い、いまは会社員のEさん(20代)もこう話す。

「私が通った私立高でも東大志向が強く、東大に落ちて慶應の理工学部に進学した友人が5人いましたが、5人とも仮面浪人して東大を再受験しました。そのくらいみな国立に行きたい。高3で志望校別にクラス分けされますが、私大文系クラスはバカ呼ばわりされていましたよ」

 埼玉は国立大志向が強いからこそ、私立の大学附属校よりも公立高が優先的に選ばれているわけだ。

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 後編『「公立王国埼玉」でもカズレーザーの母校の人気が低下…私立への流れが加速する高校無償化で公立校が戦々恐々』では埼玉の公立上位校の一部に起きている異変、学校教育に求められる改革について報じる。

小山美香(こやま・みか)
大学時代からフリーライターに。大学卒業後は「サンデー毎日」(毎日新聞出版)の編集記者を経て、フリーランスに転身。中学受験情報サイトでのべ180校以上の私立中学校高等学校を取材したほか、現在は不登校や通信制高校、子ども食堂など、子どもをめぐる事象について取材・執筆。著書に『中学受験をして本当によかったのか? ~10年後に後悔しない親の心得』(実務教育出版)がある。

デイリー新潮編集部

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