高校無償化でも“公立王国埼玉”は名門「浦高」強し! 私立の人気が上がらない独特の受験システム「確約」の意外な実態
2025年度から所得制限なしの高校無償化が始まった。一足先に2024年度から実施した大阪では、公立の定員割れなど惨状が伝えられている一方、県立浦和高校などをはじめ、公立王国と呼ばれるほど公立が強い埼玉県ではどうか。「埼玉は大阪のようにはならないでしょう」と複数の教育関係者が口を揃えるが……。【小山美香/教育ライター】
(前後編の前編)
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私立が第一志望にならない理由
「無償化はありがたい。その分のお金で、塾や習い事に行かせてあげたい」
と、喜ぶのは、県南東部に住む会社役員のAさんだ。高3、中3、中1、小5、小3、2歳、と計6人の子どもを育てているゆえ、多額のお金がかかる通塾をこれまで我慢させてきたが、これで行かせることができると笑みがこぼれた。
ならばAさんの子どもは私立高が第一志望になるかと聞くと、「いえ、第一志望は公立です」ときっぱり言う。
「自分が高校受験のときは、全員公立が第一志望で、私立は公立が落ちた人が行くイメージでした。それは今もあまり変わりません。最近は中学受験が盛んだともいいますが、それは浦和や大宮など主要鉄道の駅前の地域だけ。多くの地域は今も公立志向で、子どもの小学校でも中学受験するのは学年で1~2人程度です。中学も高校も公立が強いのが実態です」
同じく県南東部で、30年以上小中学生を教える塾講師のBさんが解説する。
「私の塾の生徒も90%以上が公立志望です。なぜなら埼玉の私立は魅力に乏しいと見られているからです。大学合格実績を上げるため、放課後に予備校の講習を受けさせるなど、予備校化している高校がほとんど。勉強漬けの私立より、伸び伸び過ごせる公立に行きたいと生徒が考えるのは当然でしょう」
さらに「何より私立の人気が上がらない理由に、埼玉ならではの受験システム『確約』があります」と説明する。
多くの私立高では個別相談会を設け、受験生親子が中学の成績と北辰テストと呼ばれる模試の結果を持参する。2つの成績が高校の基準に達しており、さらに入試を受ければ、もし点数が足りなくても合格を約束する「確約」を出すという埼玉独特のシステムだ。北辰テストとは埼玉の中3生の約9割が受験する模試で、学校側がそれぞれ設定する基準に達していれば私立高の合格を約束するという。
「確約で私立を1、2校押さえれば、あとは公立の受験勉強に専念できるわけです。私立自らすべり止めに甘んじているので、生徒からするといつまでたっても第一志望にならないのです」
川越地区で塾を経営するCさんも「確約の問題は文部科学省から改善するよう通達を受けたのに結局そのままで、私立入試は形だけで入試でもなんでもない。本来、私立は教育理念や校風で選ばれるものですが、それが理解されないから、不思議なくらい生徒はみんな公立志向なのです」と話す。
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