電子コミック絶好調の「漫画業界」で深刻さを増す“アシスタント不足”…引き止め工作で「ブランド品のバッグをプレゼント」する漫画家も

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リモートではアシスタントが育たない

 アシスタント不足に追い打ちをかけたのが、2020年から数年間にわたったコロナ騒動である。これまで、アシスタントは漫画家の仕事場に通い、集団で作業するのが一般的だった。狭い部屋に4人ものアシスタントがいて、時には徹夜をしながら必死で漫画を描く――漫画家の仕事といえば、そんなイメージを持っている人も多いはずだ。

 その働き方がコロナ騒動で一変した。リモートが普通になったのである。それまでも、デジタルに長けていた漫画家はリモートのスタイルをとっていることがあったが、コロナ騒動下では感染症対策の一環としてベテランもリモートに切り替えた。そして、コロナ騒ぎが沈静化したのちもリモートで働くスタイルが定着したのである。

 これによって何が起こったか。新人や漫画家志望者がアシスタントに入り、先輩アシスタントや師匠の漫画家から、技術を手取り足取り教えてもらうことができなくなってしまったのである。新人は基本的に技術が未熟なのが当たり前だ。スクリーントーンの貼り方もわからずに、アシスタントを始めることも珍しくないのである。

 そんな新人がアシスタント先で様々なテクニックを教わり、報酬をもらいながら技術の研鑽を図る。こうやって画力も技術力も向上させた新人は、ヒット作を生み出し、次の漫画界の担い手になっていく。これまでの漫画界は、こうした教育のシステムが上手くいっていたことで、有力な新人が供給されてきた面があるのだ。

「アシスタントにブランド品を贈っています」

 これは漫画に限らず、あらゆる教育の現場で叫ばれていることだが、リモートで新人を教育することは非常に難しいとされている。予備校などではリモート形式の授業もあるが、いわゆる職人技のような、技術を教えるタイプの仕事の教育は対面形式がベストであると、多くの人が口をそろえて言う。前出の漫画家もこのように話す。

「漫画家のアシスタントをやりたい、という人はいるんですよ。実際、ネットで募集すれば、一定数の応募がありますから。ところが、いざそのアシスタントに仕事を任せてみると、技術が未熟だったり、用語の意味も理解していなかったりで、とんでもない絵を上げてくることが多い。そこで、ベテランの漫画家ほど、昔から仕事をしているプロアシスタントに仕事を任せるようになっています」

 こうなると、アシスタントにも最初から高いスキルが求められるため、参入障壁が格段に上がってしまう。地方在住者が上京せずに仕事ができるなど、リモートにも一定のメリットはあるが、今後の人材育成の面では大きな課題があると言わざるを得ない。現に、漫画家の間では能力の高いアシスタントの奪い合いになっているという。大手漫画雑誌に連載を持つ少女漫画家は、こう打ち明ける。

「私はこのたび、アシスタントのために20万円以上出して、液晶タブレットをプレゼントしました。誕生日にもブランド品のバッグをプレゼントしています。というのも、その子にアシスタントを辞めないでほしいからです。彼女は実力が圧倒的に高く、うちにはなくてはならない存在。正直、辞められると私の漫画が上がらないので、給与面でもかなり良い待遇をさせてもらっているはずです」

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