減税やバラマキよりもまず… 景気の足を引っ張りインフラ破壊「2024年問題」を解消せよ
進んで自国の経済の足を引っ張る
アメリカのトランプ大統領が発動した相互関税措置によって、景気悪化への不安が世界中に広がっている。大和総研の試算では、このために日本のGDPは短期的に(2025年に)0.6%、中期的には(2029年までに)1.8%ほど押し下げられるという。
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相互関税とは、貿易相手国が高い関税を課している場合、自国の関税も相手国と同じ水準まで引き上げて、不利な貿易障壁をなくすためのものだ。トランプ大統領によれば、日本はアメリカに46%相当の関税をかけているので、日本からの輸入品にはその半分相当の24%の関税をかけるのだという。ところが、46%というのがきわめて恣意的に導き出された数字で、現実には日本に対して一方的に(むろんほかの国に対してもそうだが)、不利な貿易障壁がもうけられる、ということにほかならない。
だが、ここでの本題はトランプ関税ではない。このように、いわば不可抗力によって日本経済への押し下げ圧力が高まることもあるのだから、自分の足を引っ張るようなことは、極力避けなければいけない。そういう警鐘を鳴らしたい。日本がいまみずから進んで自国の経済の足を引っ張り、国民生活にも大いなるダメージをあたえていること。それは2024年問題である。
3月15日付の読売新聞に、『「引っ越し難民』続々、「2024年問題」で混雑に拍車」という記事が掲載された。それによれば、引っ越し料金は昨年より20~30%上昇しているという。また、年間の引っ越し件数の約3割が3~4月に集中するが、この時期、思い通りに引っ越し会社を見つけられない「引っ越し難民」が増えたという。
その主たる原因を記事から引用すれば、《『2024年問題』を受け、2月までに時間外労働が上限近くへ達した運転手は3月末まで長時間の稼働はできず、国土交通省の担当者は『例年より(難民は)増えた』とみる》と書かれている。
要するに、運転手に時間外労働を強いることができないため、運転手が不足してトラックを稼働させられない、ということである。
労働環境改善が引き起こす深刻な問題
「2024年問題」とは、国が進める働き方改革で、2024年4月からトラックやバスの運転手らの労働時間について規制が強化され、それによって生じる負の側面を指す。具体的には働き方改革関連法案により、トラックやバスの運転業は、年間の時間外労働時間の上限が、会社と労働組合が合意した場合でも960時間に、休憩を含めた拘束時間は年間3,300時間が上限になった。退勤から次の出勤までの休憩時間も、以前より長く確保されなければならなくなった。
断っておくと、働き方改革関連法という法律があらたに制定されたのではない。既存の労働関係の法律に手が加えられ、それらを総じて働き方改革関連法と呼んでいる。運転手の労働時間の規制は、労働基準法に手を加えるかたちで実施された。これに反すると6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる。だが、罰則の内容云々よりも、運転手が規制を超えて働くと、法令違反に問われるという事実が、雇用主にとって重くのしかかってしまった。
たしかに運送業界では、長時間労働が慢性化していた。とくにトラック運転手は、インターネット上で商品を買うEC市場の急拡大が原因で、宅配便の取り扱い個数が増え、長時間労働が常態化していた。だから労働時間を減らして運転手の労働環境を改善すべきだ、という声が浮上したのだが、それによって必然的に招かれるだろう結果に対する考察が、あまりに欠如していたというほかない。
その結果というのは、ひとつは値上げをせざるをえなくなるということである。トラックなら1日に運べる荷物の量、バスなら客の数が減るので、運賃を値上げしなければ経営が困難になってしまう。だが、それより深刻な問題として、労働時間が減ることで運転手の収入が減少することが挙げられる。
運送業界は基本賃金が比較的低めだが、その分、時間外労働によって収入が補われている面があった。とくにトラック運転手は、走行距離に応じて運行手当が支給されるので、走れば走るほど収入が増えた。このため体力に自信がある人、労働環境は多少「ブラック」であることは承知のうえで、高賃金を期待する人が集まる傾向にあった。
しかし、もはや働きたくても、一定時間を超えては働けないのである。その結果、収入が減少すれば離職する人が増える。新規に採用したくても、応募者が集まらない。
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