減税やバラマキよりもまず… 景気の足を引っ張りインフラ破壊「2024年問題」を解消せよ
インフラを破壊して人権を侵害する
3月30日付朝日新聞に「通学危機 細る路線バス」という記事が載った。それによれば、各地の小中学校や高校で、生徒が通学するためのほぼ唯一の公共交通機関であるようなバス路線が、相次いで休止や廃止になっているという。その理由は例外なく運転手不足である。日本バス協会の試算では、2024年の時点で2万1,000人の運転手が不足しており、2030年にはそれが3万6,000人に拡大するという。
そんな状況だから、地方であろうと大都市であろうと、現在、路線バスの減便や廃止が後を絶たない。たとえば、長野市の市街地と中山間地を結ぶ路線バスは、今年の秋、6路線が廃止になるという。また、北海道中央バスは4月1日のダイヤ改正で一挙に440便を廃止または減便にしたという。東京都営バスもこの春、58路線236便が減便である。
このように「2024年問題」によって、現在、日本人の生活インフラは次々と破壊されようとしている。以前と同じ場所に住み続けているだけなのに、移動する自由が確実に奪われてしまう。じつは「移動の自由」とは「移動権」「交通権」とも呼ばれる基本的人権のひとつで、日本国憲法第22条(居住・移転および職業選択の自由)、第25条(生存権)、第13条(幸福追求権)などで保障されている。
ということは、「2024年問題」とは結果的に、運転手を長時間労働から解放するツケとして、一定数の人たちから、憲法で保障されている人権を奪っていることにもなる。あるいは、移動手段が奪われて生活が困難に陥っている人を救助に行きたくても、法律によって足止めを食らってしまう、という状況に近い。
誤解を避けるために強調しておくと、長時間労働を放置しておいていいというのではない。なにかを改善するときには、改善によって生じるネガティブな結果と比較考量しながら進めなければ、時に弊害のほうが大きくなりうる、といいたいのである。運転手の労働時間についても、長時間の時間外労働を強制することがあってはならないにせよ、長時間労働を希望する人が働く権利を、性急に奪う必要があったのだろうか。
それがインフラの破壊を招くだけでなく、冒頭で取り上げた引っ越しをはじめ、物価高にもつながっている。しかし、運送業に携わる人は、物価高を上回る賃金の上昇を望んで働きたくても、働くことができない。こうした負の連鎖が景気の足を引っ張る。冒頭で述べたように、日本はいま、みずからの足を引っ張っている場合ではない。
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