「妻を壊してしまった」47歳夫の後悔 母になっていく姿に寂しさ感じて…“魂の殺人”の始まりは
家族との間の距離
ただ、文菜さんが「完璧な」母になればなるほど寿明さんは寂しかった。彼女を守るために結婚したのに、文菜さんはどんどん進化して、今や一家を守っている。
「子育てが大変すぎて妻が取り乱すなんていうことは、うちはいっさいなかったんですよ。ふたりで子育てをしている実感がわきようがなかったというか、妻に隙がなさすぎた」
そのころ彼は、仕事で重要なプロジェクトに抜擢された。文菜さんは喜んでくれたが、彼はなんとなく嫌な予感がしたという。自分は家庭を重視したいのに、妻も会社も僕を家庭から引き離そうとしているのではないか。そんな思いにとらわれたという。
「30代は本当に忙しかった。数日間の出張が毎週のように続いたり、数ヶ月にわたる長期出張があったり。帰宅すると、子どもがびっくりするくらい成長していたりして」
そんな中でお決まりのように「浮気」があった。長期出張のときは、住居近くの小料理屋で食事をとっていたのだが、それも寂しさゆえだった。店の女将と懇ろになったのはなりゆきだった。長期出張中の30代の男性が、毎日のように店に通ってくれば女将も情が移るのは自然のことかもしれない。
「女将はたぶん僕より年上だったと思うけど、ほんっとに気っ風のいい女性で、かっこよかった。悪酔いした客なんか、さっさと追い出しちゃうんだから。『男運がないのよ、私は』といつも言ってたけど、多くの客は女将目当てだったんじゃないかなあ。僕がある日、なんだかどうしようもない孤独感を抱えていたら、『どうしたの、今日は。疲れてる?』って。そんな言葉をかけられたらなびいちゃいますよ……」
断続的に数年間、長期出張を続けていたが、それも終わってその土地と縁がなくなったあとも、彼はときどき一泊の出張と偽って彼女と会っていた。
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不穏な雰囲気が漂い始めた家庭生活……。【記事後半】では、寿明さんが文菜さんの「心を壊す」過程が描かれる。
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