「堤幸彦監督」「ドリカム中村正人」との刺激的な体験 ジャズ・ピアニストの上原ひろみが語る映画と音楽「制約も含めて楽しめました」
音楽は観客によっても進化する
「この『OUT THERE』についても、やはり人からの刺激、人が集まって暮らしている街からの刺激が一番大きいかもしれません」
彼女は曲ができると、まずステージで披露する。レコーディングするメンバーがオーディエンスの前で演奏することで新たな発見があり、新たなアプローチが生まれる。だから、ライヴで曲を進化させてからスタジオに入る。
「アルバムのラストナンバーの『バルーン・ポップ』は、鼻歌のような感覚でメロディーが生まれました。頭の中で音楽が鳴り始め、そこから曲を完成させていった。その過程で、ライヴでのお客さんのリアクションまでイメージできました」
そのイメージ通りの反応が現実に起きた。
「あれはフランス南部のマルシアックでのことです。終演後、ステージの照明や客電が消えてもお客さんたちが帰らないんですよ。隣のお客さんと肩を組んで『バルーン・ポップ』のリフを歌い続けていました」
ステージ袖で、彼女はオーディエンスの歌を聴き続けた。
「まさしく私が頭のなかで思い浮かべていたシーンでした。音楽だけでなくお客さんの反応まで、私がイメージしていた状況が現実になりました」
イタリア中部のペルージャでも。
「やはり終演後、お客さんたちが『バルーン・ポップ』のメロディーを歌いながら家路についていきました。まるで、デジャブを見ているみたいでした。フランスやイタリアはミュージカルが盛んな国。演奏する側が呼びかけたりうながしたりしなくても、お客さんたちは自分から歌い出します。人々の文化に音楽が溶け込んでいるからだと思う。そういう、人や街で遭遇した体験が後々、私の音楽に反映されていきます」
音楽は、作り手、演奏者だけによって生まれるものではなく、聴く観客によっても進化し、また作り手に還元される。そのループがくり返されることによって、曲は特別になっていくのだ。
第一回「『ラーメンは宇宙』『店では黙って丼に集中』 世界的ピアニスト『上原ひろみ』が語り尽くしたラーメンと音楽の意外な共通点とは」では、上原が愛してやまない「ラーメン」を音楽との関係性も交えて深く語っている。











