元カレ、ガールズバーの客にもらったモノも… 文筆家・伊藤亜和がぬいぐるみと一緒に寝る理由

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「憎み合った相手からの贈り物だとしても……」

 不思議なことに、これらのぬいぐるみをくれた人たちとは、今はもうほとんど縁が切れている。父とは大げんかをして10年以上会っていないし、元カレも今はどうしているかも分からない。これまでの人生で、環境の変化や意見の食い違いがなんどもあって、気付けばたくさんの人が私の前から去っていった。私が悪かったのかもしれないし、向こうも悪かったのかもしれない。ぬいぐるみをもらったときのことははっきりと思い出せるのに、その人がどうしていなくなったかはよく思い出せない。私はたぶん、その人たちに対して特別な思いがあるからそのぬいぐるみと寝ているわけではないのだと思う。むしろ、なんとも思ってないから抱きしめて眠ることができる。どんな過去があったとしても、この子たちはもう私の子なのである。だから、後にどれほど憎み合った相手からの贈り物だとしても私はぬいぐるみを捨てたりはしない。遠ざけないまま、すべて忘れて許せますように。そう願って、毎晩一緒に夢を見ている。

伊藤亜和(いとう・あわ)
1996年横浜市生まれ。文筆家。著書に『存在の耐えられない愛おしさ』『アワヨンベは大丈夫』がある。

デイリー新潮編集部

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