BEGINが生んだ“世界で最も簡単な弾き語りができる楽器”や新音楽ジャンル『マルシャ ショーラ』とは? 明石家さんまの“無茶ぶり”も懐古

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「また逢う日まで」も陽気にアレンジ、新たな音楽『マルシャ ショーラ』って?

 さらに、Spotify第9位に歌謡曲カバーの「また逢う日まで」、第19位に自身オリジナルの「国道508号線」、そして第22位と第23位に島唄カバーの「安里屋ゆんた」と「十九の春」などが、“マルシャ ショーラ”のバージョンでランクイン。マルシャはポルトガル語で“マーチ”、ショーラは、沖縄方言で“しましょう”の意味を持つ。実際にこのリズミカルなバージョンを聴いてみると、なにがなんでも陽気な気分にさせるような力がみなぎっているのだが、このバージョンが生まれたきっかけを改めて尋ねてみた。

比嘉「僕は日頃から、自分の歌を届けたいという前に、人の役に立ちたいと思ってきたんです。そこへ、坂尾英矩(さかお・ひでのり)さんという、ブラジル音楽を長年にわたり日本に伝えてきた方とお話しする機会が訪れて、“このマルシャの中には、ブラジルと日本をつなぐ大切なものがあるから、君たちマルシャをやりなさい”と言われました。まず、どうつなげればいいのかと考えた時に、音楽を聴くだけじゃなく、みんなで身体を動かしたり揺らしたりすればいいと思いつきました」

 BEGINのライブは、「赤ちゃんも含め、家族みんなで来てくださいね」というスタンスでやってきたこともヒントになったという。

比嘉「それで、日本の流行歌や唱歌など、耳なじみのある楽曲をマルシャのビートにして、お客さんみんなで足踏みを揃えてみよう、というところから始まったんですよ。楽曲がノンストップのため、誰も足踏みを止めないのですが、最初はみんな照れくさいだろうと、会場のみんなで歩数計にチャレンジしてもらう工夫もしました。みんなでひとつのビートに乗って、時間を過ごすというのが楽しくなって、遂にはアルバムまで作っちゃったという感じですね。世代を超えて楽しんでもらえています(笑)」

 マルシャ ショーラでは尾崎紀世彦の「また逢う日まで」が最上位(第9位)となっている。比嘉の高らかに伸びる高音と、にぎやかな演奏は、未来に向かって「また逢う日まで!!」と明るく別れていくようで、オリジナルよりもさらに陽気な気分にさせる。

 最後に、今回のサブスクでのランキングを見た感想を尋ねてみた。

上地「ストリーミングは、誰かが影響を受けた曲とかもすぐ調べられるので、そういう聴き方ができて便利ですよね。そうやって、人それぞれの聴き方で、僕らの曲の中で気に入ったものを自由に聴いてもらえれば嬉しいです」

島袋「俺らの時は、気に入ってもまずは、買いに行かんといけなかったからなぁ(笑)。例えば、北海道のファンの方が、三線の演奏を聴いて“懐かしい”って思ってくださるのって、ちょっと不思議だなと思ったんですよ。でも考えたら、沖縄に日本の原風景を感じているから、BEGINの三線を使った曲が上位なんだと改めて納得しました。第34位にある『春にゴンドラ』も、主題歌となっている 映画『旅立ちの島唄~十五の春~』がめちゃくちゃ泣ける名作なので、映画のほうもオススメです」

比嘉「サブスクって、作り手からすると、好きに聴いたらいいよっていうことなんだろうけど、そのままだと聴き手にあまりにも負担を強いている気がするので、そこには今後、AIも参加してくるのかなと思います。同時に、技術の進歩によって、どの作品も完璧な音程や完璧なバランスを保てるようになり、歌詞もより整ったものになっていくと思うんですよ。僕らの音楽は、間違いなくその整理される前のものだけど、技術の進歩と友好的に向かい合いつつ、人間の手作業による音楽も作り続けなきゃいけない、という使命感もありますね」

 今回の取材で、BEGINがブルースからフォーク、新たな島唄、さらに『一五一会』や『マルシャ ショーラ』といった独自のアレンジによるパフォーマンスなど、非常に多彩な音楽を展開していることや、どの音楽を奏でる場合にも“人への思いやり”が軸になっていることを実感できた。そして、その幅広い音楽が、どれもサブスク時代に支持されているというのも感慨深い。殺伐とした時代だからこそ、心の平穏を求めるために、彼らの音楽が今後よりいっそう重要になってくる気がしている。

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 インタビュー第1回では「島人ぬ宝」とデビュー当時について、第2回では同じ日にデビューした福山雅治との関係などについても語ってくれた。

【INFORMATION】
◎35周年イヤー記念 ベストアルバム発売!
’25年1月29日、35周年イヤーを記念したCD2枚組ベストアルバム『BEGIN さにしゃんベスト』が発売に。「さにしゃん」とは、石垣島の方言で“うれしい”という意味。詳細及び収録曲は特設サイトにて

◎35周年記念公演開催!
’25年3月、東京と大阪にてBEGIN35周年記念公演『さにしゃんサンゴSHOW!!』の開催が決定。チケット情報は特設サイトにて
《大阪城ホール》 ’25年3月22日(土) 開演16:00/開演17:00
《日本武道館》 ’25年3月30日(日) 開演17:00/開演18:00

【BEGIN プロフィール】
比嘉栄昇(ボーカル)、島袋優(ギター&ボーカル)、上地等(キーボード&ボーカル)からなる3人組バンド。全員、1968年に沖縄県石垣島で生まれ、上京後バンドを結成し、’89年にオーディション番組『三宅裕司のいかすバンド天国』(TBS系)にてグランドキングを勝ち取り、’90年3月21日、シングル「恋しくて」でデビュー。日産自動車のCMソングに採用され、いきなり累計20万枚を超えるヒットとなった。’00年代になって「涙(なだ)そうそう」「島人(しまんちゅ)ぬ宝」「三線(さんしん)の花」など、老若男女に歌い継がれる多くの楽曲を生む。近年は、ブラジルやハワイで海外公演を行うなど活躍の場を広げ、ブルースから島唄まで多彩な音楽性と温かいサウンドで多くのファンを魅了し続けている。

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部

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