飲み屋なのにビール、酎ハイ、冷酒ナシ! 知れば飲みたくなる「熱燗しか出さない」店のアツい理由

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おちょこで変わる味わい

 話を戻そう。水原氏は、冷酒での苦い経験をきっかけに、「熱燗こそ日本酒の正しい飲み方では」とたどりついた。

「熱燗は体温より少し高い温度で提供されます。熱いからチビチビ飲むし、体内ですぐに吸収を始める温度になるから、酔うまでのタイムラグが少ない。悪酔いしない、理にかなった飲み方なんです」

 この考えをさっそく店で実践し熱燗を出すようになると、泥酔客が激減したというのだ。やはり熱燗が正解だと悟った水原氏は、お客さんにより美味しく飲んでもらう方法を探すために、研究を続けた。その集大成ともいえるのが、非公開の場所で営業している現在の店だ。

「僕には熱燗の師匠はいないんです。図書館の本や雑誌が先生でした。いわば独学です。本で見つけた少ない情報を手掛かりに、考えに考え、実験することで、熱燗を美味しく提供できる方法をずっと探してきました」

 酒の種類や提供温度によって材質の違うチロリを使い分ける方法も、書籍を元に実験を繰り返して“最適解”を見つけた。おちょこ、すなわち、熱燗を飲むための小さな陶器の形にも意味があることを水原氏は知った。 例えば、よく見るおちょこには、底に青い二重丸があるものがある。利き酒などでよく使われるものだ。実はお酒を味わうにはあまり向いていないという。

「利き酒用のおちょこは日本酒の状態をチェックするために、色や香りが出やすく作ってあるんですが、悪い香りも立ちやすいんですよ。作り手が悪い部分を確認して、この後どう対処するかを考えるためです。つまり、あのおちょこで飲むと、美味しくないと強く感じる酒も出てくるから、お店でお客さんに出すには向いてないんです」

 水原氏は出す酒を変える度におちょこも変え、気が向くと同じ酒を形の違うおちょこで飲む実験を行っている。

「おちょこの形によって、不思議なぐらい味わいが変わるんです」

 ワインがグラスによって味わいが変わるという話を知っている人は多いだろうが、日本酒もそうなのだ。しかし国酒なのに、日本人でそのことを知っている人は少ない。日本人が日本酒のことをよく知らない一例である。

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