「表にポリ公ようけおるな」…三菱銀行事件「梅川昭美」の大胆不敵な要求 捜査本部がどうしても避けたかった「ふたつの差し入れ」

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母親の説得を…

「ラジオでオレの名前を“てるみ”と言うとったが、わしは“あきよし”だ」(8時10分)

 続けて9時30分には朝刊を持ってくるように要求。ラジオと合わせ、新聞記事を読むことで、警察の動きが知られてしまうことが懸念された。後に作成された警察庁の資料によると、「新聞・ラジオについては、人質の安全を考慮して、要求に基づき差し入れを行ったが、この種の差し入れは報道対策を検討した上で実施する必要がある」としている。

 酒を入れた悪効果はすぐに表れた。梅川は追加をしつこく要求するのである。27日午前11時すぎ。

「梅ちゃんでーす」

「はぁ?」(捜査員)

「梅川ですがな」

「梅川さんですか」(捜査員)

「さんづけはええがな。ビールどうなってる。何を手間取っている?」

 この間、捜査本部は四国にいる梅川の母と連絡を取り、現場に連れてくるように段取りしていた。「狙撃」による強硬策を念頭におきながら、「説得」による懐柔策も忘れなかったのである。午前11時4分、捜査本部から梅川へ電話をかける。

「ビールを入れた。お母さんがお前のことを心配して来ておられる。お母さんが話したいと言っているので、二人で話してみたらどうか」(捜査員)

 梅川は一方的に電話を切った。その数分後、「冷たいビールを2本入れろ」と要求する。時間が経つと、人質に電話をかけさせ、「ビールを早く入れてください」と懇願させた。指揮本部が缶ビールを差し入れる。すると、

「誰がこんなぬるいビール持ってこい言うた。冷たいビール2缶出さんか。お前らの本音はわしを何とかしようと思うとるんやろう。そうはいかんで。そろそろ脱出の用意をしようか。4人ぐらい人質を連れていく」

 午後1時47分、捜査本部は“勝負”に出た。梅川に電話を入れる。

「お母さんと話し合ってはどうか?」

「……」

「もしもし」(母親)

 梅川は一方的に電話を切った――。

【第3回「『三菱銀行立てこもり事件』強行突入までの緊迫ドキュメント…“犯人狙撃”で解決も『本部長』が最後まで明らかにしなかった“重要情報”とは」いよいよ検挙班が犯人に迫る】

デイリー新潮編集部

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