「八村塁」は何に怒っているのか 「ホーバス監督」批判よりも注目すべき“協会は金目的”発言の真意とは

スポーツ

  • ブックマーク

解散危険水域

 JBAには、常にお金の問題がまとわりついてきた。

 そもそも日本バスケット界は内部での分裂が続き、2つのリーグができたことで国際バスケットボール連盟(FIBA)から2014年、「代表チームの無期限の国際試合での活動停止」という厳しい制裁を受けていた。これを解決したのがサッカーJリーグ初代チェアマン・川淵三郎氏である。

「FIBAの制裁を解いただけではなく、JBAの財政再建とBリーグ立ち上げのために、ソフトバンクの孫正義会長の元へメインスポンサーへのお願いの直談判に行っています。それにより初年度から4年120億円とも言われる他のスポーツ団体が羨む大型契約を結ぶことに成功しました」(夕刊紙記者)

 日本バスケ再建のはじめの一歩がこれだった。この契約は今年から2期目に入っている。ところが、こうした収入がありながら、JBAはコロナ禍以降、財政状況はかんばしくない。2022年には、〈【バスケ】日本協会5億8000万円の大赤字 財団法人解散危険水域も〉(日刊スポーツ)なる報道が出たほど。この記事によれば、JBAは2020~2022年と3年連続で赤字を出し、正味財産が1億1000万円ほどに減少したという。

 そんなJBAにとって、頼みの綱とも言えるのが、日本代表の存在だ。例えば、昨年沖縄などで行われたW杯では、アジア最上位の19位に入る代表の活躍があり、チケット売り上げが想定より大幅に増加。2023年度決算の黒字化に大きく貢献した。この11月のアジアカップの予選も、日本テレビがゴールデンタイムで中継した。その代表の中心であり、スターであるのが八村。7月の“八村欠場隠し”には、金目的の意図があったと勘繰られても仕方ない。

 しかも、財政が厳しいはずのJBAだが、「役員および評議員の報酬並びに費用に関する規程」を見ると驚きの数字が出てくる。役員棒給表を見ると49通りに区分けされ、その最高額が月額250万円。三屋会長以下の報酬額は非公表だ。その三屋会長は30日の報道陣との取材の場で「(八村とは)価値観の違いを埋めたい。簡単ではないだろうけど」と話したが、この役員報酬額については、世間との「価値観の違い」があるのかもしれない。

イチローの乱、本田の乱

 ホーバス監督はNBAでの選手、指導者経験はほとんどない。日本女子の監督として東京五輪でチームを銀メダルに押し上げて名を上げ、日本語も解することから、男子の代表に抜擢された。W杯で好成績を導き、先のパリ五輪でも銀メダルを獲った強豪・フランスにあと一歩まで迫るなど結果を残してはいるものの、世界を見渡せば、彼より“上”のコーチはたくさんいる。

 八村の「金目的」発言と監督批判に、上記の経緯を加えると、現状の協会運営の問題点は以下のようなものになるだろうか。スポンサー収入や代表の収入で稼げているはずなのに、なぜ財政が厳しいのか。運営に問題があるのではないか。役員報酬を高止まりさせるくらいなら、監督にもっと金を出し、実績あるコーチを呼ぶべきでないのか。それが代表の強化や、子どもたちの未来に繋がる。代表選手を利用して集めた金は一体、どこに行っているのか――。

 他のスポーツではあるが、2009年のWBCの監督選考の際、進められていた星野仙一監督招聘に対し、イチローが待ったをかけ、話が流れたことがある。また、2018年、サッカー日本代表のハリルホジッチ監督も、本田圭佑、香川真司などの主力の反乱で退任に追い込まれた。

 今回の騒動が上記のような例まで発展するかどうかは不透明だが、こと采配だけでなく、協会の体質にも関わる問題だけに、先行きはまったく見通せない。

小田義天(おだ・ぎてん) スポーツライター

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。