「特大ブーメランでは」実は野田代表が主張していた「総裁選直後の総選挙」

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 石破茂新総理の言行不一致、あるいは過去の発言と現在の行動との食い違いが批判を浴びている。メディア露出が多かった分、あちこちに足跡が残ってしまっているのは痛いところだろう。

 もっとも、与野党問わずこの手のことはつきもので、野党議員の多くも「ブーメラン」と揶揄されてきた過去を持つ。その点においては、立憲民主党の野田佳彦代表にも、「触れてほしくない過去」が存在する。ここでご紹介するのもかなり大きなブーメランといえるかもしれない。

 野田氏がまだ総理はおろか、民主党(当時)の代表にすらなっていなかった頃の著書『民主の敵』には、いかにも野田氏らしい切れのあるフレーズが並んでいる。

「一部の既得権集団の利害ばかりを優先するシステムが、政官業あらゆる分野で強固な汚れのようにこびりついてしまっています。この汚れは戦後数十年かかって作られたものですから、少々の洗濯では落とすことはできません。こうしたシステム、そしてそれを支える勢力は、わが民主党の敵という以前に、主権者である民衆の敵です。この汚れを丸洗いするのに、もっとも有効な手段が政権交代なのです」

「私たちは党のためや、ましてや民主党議員のために政権交代を唱えてきたわけではありません。政権交代が可能な国を作ること。それが国民の幸福に直結すると確信しているのです」

 同書の刊行は、政権交代前夜の2009年。一貫して二大政党による政権交代可能な体制を追い求めてきた野田氏らしい主張が、小気味いいテンポで分かりやすく語られている。演説の名手としての面目躍如といったところだ。

小沢氏の「決断」を評価

 一方で、今になってみると微妙な主張もチラホラと目につく。この時期、民主党では小沢一郎代表の「政治とカネ」問題が注目を集めていた。秘書が逮捕されたことを受けて、小沢氏は民主党代表を辞任する。ただし、議員辞職はしていない。

 あくまでも野党のトップの座を降りたことだけで、済ませようとしたわけだ。

 これについて野田氏はこう述べている。

「挙党一致の態勢をより強固にするために、小沢さんは民主党代表の職を辞することを決意されました。本来、組織のトップの出処進退はご自身が判断するべきであり、周囲が大騒ぎする筋の話ではありません。(略)

 小沢さんは今度の総選挙を歴史的な政権選択選挙と位置づけ、悲願の政権交代を実現するために少しでも差し障りがあってはならないと、自ら身を引く覚悟を決められました。大局観に立った政治判断であったと評価したいと思います」

 現在、自民党の裏金問題で「議員辞職」や「公認取り消し」を強く求めている野田代表とは思えないような、かなり優しい言葉が並んでいるのである。小沢氏が絡んだ「陸山会事件」の裁判では、小沢氏自身は無罪になったが、元秘書三人は有罪判決を受けた。小沢氏のように党内の役職を降りるだけで「評価」してもらえるのならば、現在厳しく非難されている、いわゆる「裏金議員」も全員問題なしということになってしまうのだが……。

与党のトップが変わるときに民意を問え

 これらに加え、さらに野田氏が掘り返されたくないのは次の主張だろう。首相公選制に絡み、今の石破氏が聞いたら大喜びしそうなことを訴えていた。

「選挙に関連しては、よく首相公選制の問題も取りざたされます。そのメリットは理解できるものの、現実的には、憲法の問題に立ち入ってしまいます。現時点では、実現性には乏しいといわざるを得ないでしょう。

 ただし、私としては、現行の制度の中でも、与野党の申し合わせで、それに近いことが実現できると考えています。そしてそうすべきだとも。

 具体的には、与野党で次のような申し合わせをするべきだと考えています。

 与党のトップ、要するに総理、総裁が交代するときには、民意を問う、すなわち総選挙を行うという申し合わせです。と同時に、民主党の人間としては言いにくいのですが、私は、衆議院の優越をもっと強化してもいいと思っています。

 衆議院優勢、衆議院の民意を優先するという方向性を一方で認めながら、そのかわり、トップが代わるときは必ず民意を問うために総選挙を行うことにすれば、実態としては首相公選に近づくと思います」

 与党のトップ交代と総選挙との間のインターバルこそ明記していないものの、「トップが代わるときは必ず民意を問う」という文章を素直に読めば、与党のトップ交代から速やかに総選挙をすべきという主張と考えてよさそうだ。

 ただし、このあと誕生した民主党政権時代には、そのようなことは行われていない。その点、今回、石破新総理は野田代表の長年の持論を代わりに実行しようとしているといえなくもない。

 実のところ、野党が主張する「予算委員会での議論」への国民の期待値は低い。あら探しに終始するケースが多いと考える人も多いからだ。それよりは公約を掲げて選挙で争うほうがいい、という考えが当時の野田代表にはあったのだろうか。

「言行不一致」が指摘されるのは、石破新総理や野田代表に限ったことではない。政治とは妥協の産物であるとはよく言われるところ。責任ある立場となり、現実に向き合った際、過去の発言と矛盾が生じるのが政治家の宿命なのだろうか。

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