元横綱・琴櫻が「32歳で横綱昇進」を成し遂げたワケ “投げを封印”で覚醒(小林信也)

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祖父の四股名

 72年11月場所、横綱・北の富士を破って3年半ぶり3度目の優勝を遂げた。この一番は、いま映像を見返しても背筋が寒くなるほどの激しさだ。

 立ち合いから、狙いすました左のノド輪が北の富士の顎にはまり、そのままグイグイと押し込んでいく。懸命にこらえる北の富士の上体がエビのように後ろに反り返る。琴櫻はさらにノド輪に力を込める。すると、北の富士はたまらず背中から土俵にたたきつけられた。

 ノド輪で相手を土俵にたたきつける相撲など、60年以上も相撲を見ていて、他にあまり記憶がない。琴櫻の相撲はそれほど猛々しいものだった。

 続く73年1月場所でも14勝1敗で優勝。大関になってから5年が経過し、「大関のまま引退か」と多くのファンが思っていた琴櫻が32歳にして急に覚醒し、横綱に昇進した。

 泥臭く、激しい相撲。努力と執念で横綱に昇りつめた先代琴櫻は敬うべき祖父ではあるだろう。だが琴ノ若の相撲とあまりに違うから、琴櫻襲名がまだピンとこない。琴ノ若に、先代の激しさが注入されたら、歴代の大横綱をもしのぐスケールの大きな横綱像が見えてくるのかもしれない。祖父の四股名は琴ノ若をどう変えるのか。

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2024年4月25日号掲載

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