日活ロマンポルノはなぜ今も根強い人気があるのか

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 2021年に50周年を迎えたことを機に、日活ロマンポルノが再ブームを迎えているという。『ジャニーズ61年の暗黒史 新ドキュメントファイル』などの著作で知られる作家の小菅宏氏が、その背景に迫った。(小菅宏/作家)

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主人公は「男」ではなく「女」

 日活ロマンポルノが世に出た1971年は、日航機よど号乗っ取りや、沖縄コザ市で米軍MP(憲兵)が行った交通事故の差別的な処置をめぐって市民の暴動が起きるなどした翌年だ。同年5月、「連続女性誘拐殺人事件」の容疑者が逮捕されるなど日本の世情が右往左往した。そして、世間が落ち着きを取り戻す直前の同年11月に、主演・白川和子「団地妻 昼下がりの情事」(監督・西村昭五郎)と、主演・小川節子「色暦大奥秘話」(監督・林功)のセクシー路線で、経営苦難を吹っ切る覚悟の映画会社日活がロマンポルノの名称を背負い、封切った。

 当時の日活には、世間から「エロ映画」と蔑称されたピンク映画の制作しか延命策がなかったからだが、その裏面では1968年に東映が封切った成人映画「徳川女刑罰史」(監督・石井輝男)が、同年の国内配収のべストテン入りを見越しての窮余の一策だったとの見方もある。そうした業界の背景に私は、先の「連続女性誘拐殺人事件」があったと考えた。人間は世間に不穏な空気感が濃くなると「性的な誘惑」に逃げ込む性向がある。

 私が当時の日活ロマンポルノを評価する点は、平凡な人間の視線を通して同時代性を描く脚本の主題にあった。名優・樹木希林は、「一番大事なのは台本、次いで監督、映像技術者、共演者、俳優の順」と述べていたが、日活ロマンポルノはストーリーテリングに「生身の女の生理」を、その時代の時機に合致させたシナリオだったと合点する。従来の邦画の主人公は圧倒的に「男」であり、女優は敢えて言えば、刺身のつま、だったが、日活ロマンポルノの「女」は自己主張をして存在を主張するのである。「ワタシたちだって生きているのよ」と。

 日活ロマンポルノ中期の、「女性客も取り込め」とした日活の視点が思わぬ共感を招く。その代表作が「百合族」(監督・那須慎之・1983年)でレズビアンの愛を描いた。男性の同性愛を薔薇族と称したのに対し、女性同性愛者を百合族と呼ぶ話題性も起きた。1970年代後半から、日活直営館にカップル客と、単体の女性客が他社の直営館より目立つと評された一因だ。

 そんな日活ロマンポルノは、2021年に50周年記念として新作を公開し、令和の世に蘇ることになった。さらに22年、23年には「濡れた唇」で知られる絵沢萠子、「夕子シリーズ」でスター女優となった片桐夕子の逝去が相次ぎ、各メディアがこぞって報道。往年のファンを中心に、再注目の時が訪れているわけだが、その背景には、日活ロマンポルノの「女性の描き方」が大きく影響しているといえよう。

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