重要な部分が欠落…アカデミー賞独占「オッペンハイマー」に異論噴出 SNS上で激しい議論に

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興行成績に配慮した可能性

 猿渡氏は記事で《一部からは疑問の声も聞かれる。原爆を作った人の話であるのに、広島、長崎の被害の状況がまるで映し出されない》と指摘した上で、自身も描写の欠如を《意外に感じた》と記した。

 さらに映画を見た外国人記者も取材、興行成績に配慮し、広島や長崎における原爆の惨禍を描かなかった可能性もあるとの見解を伝えた。

 デイリー新潮も全米公開時の昨年8月4日、「映画『バービー』原爆コラ騒動 アメリカ人の意識に下げ止まり感…防大名誉教授が明かす“彼らの本音”」との記事を配信した。

 この時、映画「バービー」も大ヒットしており、宣伝の一環で「オッペンハイマー」とのコラボが呼びかけられた。その結果、何とバービーのヘアスタイルが“キノコ雲”などといった不謹慎な画像がXに投稿される事態になっていた。

 記事では防衛大学名誉教授の佐瀬昌盛氏が「現在のアメリカでは原爆投下を巡る歴史的評価で、かつて多数派を占めた投下肯定派が減少し、投下否定派が増え続けた結果、現在は拮抗している」ことを紹介した。

「アメリカは分断社会になったと話題になって久しいですが、原爆投下の是非を巡っても分断が生じているわけです。こういう状況でオッペンハイマーの生涯を映画化するなら、確かに広島や長崎の惨状を描くシーンは避けたほうが無難でしょう。もし描かれたなら、原爆投下否定派は賛意を示しても、肯定派が拒絶する可能性があるからです。とはいえ、そうした興行的な判断を日本人が納得できるかどうかは全くの別問題です」(同・記者)

厳しい検証が求められる描写

 プリンストン日本語学校高等部で主任を務め、作家でジャーナリストの冷泉彰彦氏はニューズウィークの日本語電子版で連載されている「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」で、映画「オッペンハイマー」を取り上げた。

 昨年7月26日に「クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』を日本で今すぐ公開するべき理由」のコラムを配信。映画の問題点を指摘したのだ。

「冷泉氏は複数の問題点を指摘しましたが、その中の一つに臨界実験のシーンがあります。CGや音響効果を駆使し、観客に圧倒的な迫力を感じさせたのは事実だとしながら、このシーンは原爆の恐怖を描いたのか、それとも、原爆開発成功の勝利感と解釈される表現になってしまったのか、冷泉氏は《厳しい検証が求められます》と訴えました」(同・記者)

 さらに冷泉氏は、主人公のオッペンハイマーが戦後、広島の惨状を知る場面にも疑問を呈した。広島の被害を収めたフィルムを見るオッペンハイマーの姿は描写されたが、どんな光景がフィルムに映っていたのかは劇中で全く示されなかったのだ。

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