「戦争を機に日本とウクライナの関係は深まった」 モデル、力士、サッカー選手、歌手…在日ウクライナ人の思い

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「戦争を機に日本とウクライナの関係は深まった」

 ロシアによる侵攻から2年。芸能やスポーツなど様々なジャンルで奮闘する日本在住のウクライナ人に、母国の戦争や日本での生活について聞いた。

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 モデルのNASUさん(28)は中学生のころ、ふと耳にした日本のロック音楽に夢中になった。訪日の夢をかなえるために大学では日本語を専攻。在学中の2014年、クリミア紛争が勃発し、身の危険を感じて大学を中退、来日した。

「勉強していた日本語が日本ではほとんど通じなくて、苦しい思いもしました」と言うが、SNSに投稿した写真がファッション関係者の目に留まり、モデル事務所にスカウトされ生活も落ち着いた。

「戦争が早く終わってほしいのは当たり前です。ただ戦争を機に日本とウクライナの関係は深まったと思う。戦争が終わっても仲良くしてほしい」

 母国より自身の可能性を生かせる日本に定住したいという。

本来なら母国の代表チーム入りを目指して練習していたはずが…

 サッカー選手のヤロスラフ・シャトンダさん(20)は、ハルキウの名門チーム「メタリスト」に所属し、本来なら母国の代表チーム入りを目指して練習しているはずだった。しかし、ロシアによる侵攻を受け、チェコに避難。22年冬にサッカーを続けられる環境を求め、日本に住む叔母を頼って来日した。現在は横浜FCの下部組織「アカデミー」の練習生としてサッカー漬けの毎日だ。

 ハルキウの両親には毎日電話して安否を確認している。

「家族も頑張っている。僕も頑張らねば」

 頑張る理由は試合に出るためだ。

「今は練習生で試合に出られない。早くJリーグチームと契約してもらえるようにうまくなりたい。平和が戻ったらウクライナ代表としてワールドカップにも出場したい」

 激戦のゴールキーパー枠を勝ち取るべく、闘いの日々だ。

土俵入り以来無敗の逸材

 安青錦新大(あおにしきあらた)さん(19)は、初土俵以来一度も負けていない。序の口、序二段ともに7戦全勝優勝で、3月の大阪場所は三段目の上位まで番付を上げることが予想されている。ウクライナ中部のビンニツァ出身で7歳から相撲を始め、21年の欧州相撲選手権で優勝した逸材だ。

 ウクライナ代表として世界選手権に出場するため故国で稽古を重ねていたが、22年4月に戦火を逃れて来日。関西大の相撲部で稽古を積んだあと、12月に安治川部屋に入門した。

 国技館の敷地内にある相撲教習所から電車で部屋に戻る途上の彼に来場所への意気込みを聞くと、きれいな日本語で「来場所も優勝したいです」とキッパリ。
「早く出世して関取になる。親方と関取になるまで故郷には帰らないと約束しています」と決意は固い。

「自然が美しい日本で歌い続けたくて…」

 ソプラノ歌手のオクサーナ・ステパニュックさん(46)は、02年にウクライナ国立音楽アカデミー声楽科を首席で卒業し、ローマ法王に招かれ御前演奏をした経験もあるスーパーエリート。国際コンクールで優勝したイタリアに拠点を移すつもりでいた。そんな時、日本から招待され高円宮邸で演奏したのがきっかけで、活動の場を日本に定めた。

「自然が美しい日本で歌い続けたくて、米国やオーストリアからのオファーも断りました。日本食も大好き。ただカレーは喉に悪い気がして苦手ですが……」

 現在は日本全国でソロリサイタルを行い、オペラにも出演。CDも7枚発売している。

「私にできることは歌うことです。音楽の力を信じ、母国への思いを歌でお伝えしたい」

 平和を願い歌い続けている。

撮影・吉川 譲(NASU)/西村 純(ヤロスラフ・シャトンダ)/本田武士(オクサーナ・ステパニュック)

週刊新潮 2024年2月22日号掲載

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