【朝日杯】藤井聡太八冠が敗れる 勝った永瀬拓矢九段が色紙に「聡」と書いた意味

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 2月10日、将棋の朝日杯将棋オープン戦(主催・朝日新聞社)の準決勝と決勝が有楽町朝日ホール(東京・千代田区)で行われ、決勝で永瀬拓矢九段(31)が藤井聡太八冠(21)を129手で下し、初優勝を果たした。昨年の覇者である藤井は、日本将棋連盟会長の羽生善治九段(53)が持つ最多タイ記録に並ぶ5回目の優勝を逃した。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

持ち時間を減らした藤井

 2007年に始まった朝日杯将棋オープン戦は、全棋士と主催者推薦による女流棋士3人、アマチュアの強豪10人が参加するトーナメントで、持ち時間が各40分の早指しが特徴だ。18年には藤井が、準決勝で羽生九段、決勝で広瀬章人九段(当時八段=37)を破って15歳6カ月の史上最年少で初優勝した 。

 昨年、藤井に王座のタイトルを奪われた永瀬は「胸を借りるだけなので、こちらは精一杯やるのみ、一生懸命集中するのみかなと思いながら指していました」と勝利を喜んだ。敗れた藤井は「残り時間が厳しいかな。少し自信のない感じでしたが、全体に難しい局面が長かった。最後に崩れて、はっきりダメにしてしまった気がします」と悔やんだ。

 現在、藤井には、中原誠十六世名人(76)が1967年度に達成した年度最高勝率8割5分5厘の記録更新の期待がかかるが、そのためには、今後1敗も許されない5連勝が条件となった。

 先手の永瀬は意表を突く「矢倉」の駒組で、間髪を入れずに指し続ける。これに少し戸惑ったか、藤井は時折、長考になる。持ち時間の差は大きく開いてゆき、藤井が残り1分になった時、永瀬は39分も残していた。結局、「6五」に竜が控えさせる永瀬が「7二飛」と王手をかけると、大量の持ち駒を抱えたままの藤井が投了した。

大熱戦だった準決勝

 藤井は準決勝で糸谷哲郎八段(35)と対戦。糸谷の「雁木(がんぎ)戦法」に一時は劣勢に立ったが、終盤には糸谷の判断ミスにも助けられ辛勝した。

 大熱戦となったのは、永瀬が関西棋士のダークホース・西田拓也五段(32)と対戦したもう一つの準決勝だった。双方が持ち時間を使い切り、1分将棋になってから何手も進んだ。先手の永瀬は「穴熊」に自玉を囲ったが、西田は危なくなった玉を自陣から逃走させて永瀬陣の最下段に入玉させた。自陣に入ってきた玉を仕留めるのは難しい。将棋の駒は基本的に前進するようにできている上、入玉する側は他の駒が敵陣で「金」に成れるので守りが強固になるからだ。

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