被災地に自ら飛び飛行機事故に… 史上最高の右翼手・クレメンテの豪快な生涯(小林信也)

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横領を防ごうとして

 クレメンテは、MLBの頂点に立ち、プエルトリコの英雄になった。少年時代、アメリカ野球に憧れ、ベーブ・ルースらアメリカの選手に胸を躍らせたクレメンテにとって、「母国の英雄が少年に夢を与える」、それこそが最大の目標だった。そしてその夢を自ら達成した。

 クレメンテは72年9月30日、通算3000本目の安打を記録した。そのオフ、12月23日に3000本安打のパーティーを開いている時、母国と同じ中米のニカラグアで大地震が発生したと報せが入った。クレメンテはすぐ支援物資を現地に送った。ところが、その物資が横領されていると知り、「私が行けば、そんなことはしないだろう」と、自ら現地に赴くと決めた。

 12月31日、クレメンテが乗り込んだのはジェット機でなく、ターボプロップ機のDC7。最大積載量を超える支援物資を積んだ同機は、離陸直後に1基のエンジンがトラブルを起こした。操縦士が引き返すため急旋回した直後、カリブ海に墜落した。懸命の救助活動もむなしく、機体の一部が回収されただけで、クレメンテはいまも海中に眠っている。

 MLBは人格者で慈善活動を精力的に行っている選手に贈る賞にクレメンテの名を冠した。2023年の受賞者はアーロン・ジャッジ(ヤンキース)だった。

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2024年2月8日号掲載

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